【協力者たち】


『ののこが殺人犯らしき人物から狙われている』

　校内のもれいびに静かに、ゆっくりと広まっていった。
　鈴木、黒依、芹沢はまずはクラスのもれいびに話を付け、その後は部活や委員会などで徐々に拡散していった。
　無論、ののこに勘付かれないように、という前提で。
　だが、ののこの『アホの子補正』のおかげで、全く気付かれる気配がないのは嬉しいやら悲しいやら。


　木曜日、放課後。
　この日は鈴木たちが呼び掛けた協力者たちとの初顔合わせの日だ。
　放課後、シーサイドタウンにあるキャットロードのファンシーな雰囲気のケーキショップ『シュガーラスク』で作戦会議である。
　ちなみに、この店を選んだのは鈴木 修一郎、このひとである。
　曰く、「こんなに甘可愛い雰囲気の中で論議を交わせば、妙案が生まれるに違いない！」からだそうだ。
　もっとも、鈴木自身の『可愛いもの好き』の趣向がこの店を選ばせたわけだが、ツッコミは無用だろう。
「――すごい、店だな……！」
「えぇ。私、浮いてないかしら……？」
　芹沢、黒依、ファンシー世界の店内に少々戸惑い気味。
「ククク……！　クマさんにリボンやら可愛いものばかり！　論議に力が入りそうだ！」
　一方、鈴木。
　テンションは既にフルスロットルである。
　と、そこへ１人目の協力者が登場。
「あー……。ここかぁ？　鈴木後輩がここで何かやるって聞いたんだけどよ？」
「いらっしゃいま、せ……！！」
　店員は思わずトレイを落としてしまった。
「ゾ、ゾンビぃ～！？」
　店内に入ってきたのは、土気色の肌に痩せ細った身体。
　目は虚ろで深い隈もある。頭は寝癖でボサボサ。歩きもヨロヨロだ。
「んぁ？　人間だっつーの。まぁ無理もねーか。俺は屍 骸ってもんだ。怪しいもんじゃねぇ」
　寝子島高校２年２組、屍 骸、見参。
　ファンシー世界にホラー要素が突撃した瞬間である。
「っつー訳で。客を早く案内してくれ。直射日光、腐れやべぇ。俺を殺す気かよ？」
「ここここここちらですぅー！」
　店員は恐怖に慄きながら、芹沢の隣の席を案内した。
「……いきなりパンチのある協力者が来たな」
　芹沢、目の前のリアルな生ける屍に困惑中。
「某有名なRPGでは腐乱死体の魔物が仲間になるくらいだ。この程度で動じては、野々は守れぬぞ！」
「そうね。相手は推定殺人犯。腐ったゾンビが仲間になっても、今更驚かないわね」
「お前ら、先輩を少しは敬えよ……。腐ってもいねーし、死んでもいねぇから。あ、俺、苺のショートケーキ１つ」
　鈴木と黒依の遠慮のない物言いに苦笑いしつつ、意外と可愛らしいものを注文する屍であった。
「腐ってると聞いて！」
　ガチャッ！
　勢いよく店の扉を開け放つは霧切 翠子。隠れ腐女子である。
　店内の会話が彼女の腐女子センサーに引っかかったようだ。
　だが席に通されると、急にしおらしくなる。
「……霧切 翠子です。えっと、なんか、ごめんなさい。どうか、このことは内密に……」
　どうやら気まずいと感じているらしい。。
「安心し給え、『私は何も見なかった』ぞ」
「鈴木さんの言う通り、『私も何も見ていなかった』わ」
「俺もだ」
「……（ケーキに夢中）」
「みんな、優しい……！」
　人の優しさって、あったかいね。

　その後も続々と協力者が駆け付けてくる。
「ののこが事件に巻き込まれそうだって！？　これは探偵の出番だね！」
　探偵コスで颯爽と登場するはシャルロット・オルメス。
「鈴木さんの呼び掛けで参りました。微力ですが野々さんを守るお手伝いさせて下さい」
　清秋院 静香が礼儀正しく快諾すれば、
「同級生としてののこを守りたいんだよねぇ。無謀だとか蛮勇じゃ無い方法でさ」
　と、煎餅を頬張りながら清秋院の後ろを付いてくる猫村 翡翠。
　ともにののこと同じ１年５組のクラスメイトである。
「独りで入り辛かったんだ、助かった！」
「実は俺も……。ゴテゴテしすぎだよな」
「２人とも、たかがケーキ屋に何を躊躇っている？　私が先導するから付いてこい」
「橘先輩も博美さんも……、行きましょう……？」
　橘 敦志と奈良橋 博美がピンクの外装に戸惑っているところを双葉 仄が先導し、御巫 時子が２人の背を押す。
「やっほー！　おー、集まってるねーっ！」
「部長、言われたとおり連行してきたぞ」
「ひびきちゃん、ありがとーっ！　でかしたでかしたーっ！」
「おい、剣道部の練習サボらせて何するって言うんだ？　って、桜庭、またお前の差金か？」
「こういうの慣れてるでしょ、刀君はっ！」
「……俺に拒否権はないってことね、はいはい……」
　ボクシング部部長の桜庭 円とその部員、笠原 ひびきも到着。
　そして笠原に強制連行されて来たのは御剣 刀だ。
　今日も今日とて、桜庭に振り回されて不憫全開である。
「ククク……、皆、よく集まってくれた！　これより、野々のフツウを守るための円卓会議を始めるッ」
　みなぎる鈴木、厨二病パワーもフルスロットルだ！
「さぁ、まずは宣言するがいい、己が求めるケーキの味を！」
「普通に注文って言えばいいんじゃないかなぁ？」
　マイペース猫村、鈴木に冷静にツッコミを入れた。


　二　時　間　後　――


　議論は煮詰まっていた……。
「ぬぅ、こうも情報量が少ないと何も出来ぬではないか！」
　なにせ、手掛かりは手紙の内容とニュースのみ。
　様々な仮説は飛び交うも、どうも決め手に欠ける。
「俺たち、もれいびだからって言っても所詮、高校生だしな。この間の図書館の片付けとは訳が違う」
　鈴木の愚痴に橘が苦笑い。先日の図書館の騒動を思い返す。
「探偵は、現行犯には弱いから……。もっと情報を集めることから始めるべきじゃないかな？」
　シャルロットが提案すると、双葉が頷きながら意見を述べる。
「確かに。それに今日は議論ではなく、顔合わせの意味合いが強いと思うのだが。鈴木、皆の連絡先、交換すべきだと思うぞ？」
「ふむ、双葉の言うとおりだな。言いだしっぺとして、当日は私が野々の安全の確保の為に皆の指揮を執りたい。構わぬな？」
「俺も手伝う。恐らく、当日は張り込みと警戒がメインだろう。情報統括は１人より２人でやるべきだ」
「それと私からも提案させて。野々さんを守る【ガード】班と、セブンがやってきた時に対応する【対セブン】班の二手に別れましょう」
　鈴木と芹沢、そして黒依の提案に大多数は頷くが、一部は首を縦に振らない。
「ごめん、ボクはそういうのパス。もっと自由に動きたいし」
　桜庭がそう言うと、御剣がその肩を叩く。
「おい、桜庭。単独行動は危険だ。相手は殺人犯かもしれないんだぞ？」
　御剣の心配顔をよそに、笑顔で答える桜庭。
「もしもの時は刀君が守ってくれるから大丈夫！」
　がっくりと項垂れる御剣の頭をポンポン叩くように撫でる桜庭。
「……言うと思った。そして安定の拒否権なし。分かった、俺が守ってやる。でも無茶はするなよ？」
「えへへー、頼りにしてるよーっ」
　仲良しコンビ（主従的な意味で）なら安心だろう、と一同は納得した。
「あたしもパス。ただし、事前の調査は全力で取り組ませてもらうぜ」
　笠原はそう言うと、素早く勘定を済まし出す。
「じゃ、あたし、明日学校休むから……。丸１日掛けて色々とあたってみる。それじゃ」
　風のように去っていく笠原だった。
「私も明日、寝子島高校ミステリ研究会のみんなにも協力を仰いでみるね。本格的な事件の調査、気合が入ります！」
「オルメスさんも、無茶しないでくださいね？」
　清秋院は改めて詳細を聞き、恐ろしく感じていた。
　殺人犯がこの島にいる。
　その殺人犯が、初めて出来たクラスメイトに危害を及ぼそうとしている。
　怖い。とても怖い。
　しかし、清秋院は誰かが傷付くところは見たくないと思っている。
　ならば、自らが傷付いたとしても守らなければ。
「ののこ様の安全、必ず、確保します。クラスメイトが傷付いたりするなどとんでもありません！」
　珍しく強い口調で清秋院は皆に言い聞かせた。
「ののこちゃんからラブレターの事を聞いて、恋人が出来ると思ってドキドキしてたのに……」
　至極残念そうに呟く。
「ラブレターにあった『あいしてるせぶん』の意味を知りたいです……。嫌な予感がするんです……。だから、ののこちゃんの傍で守ります……！」
　御巫も控えめな口調ながらも固い決意を述べた。
「んじゃ、今日は解散か？」
　奈良橋の一言で、今日の作戦会議は終了。
　また土曜日に落ち合い、まとめ上げることとなった。