グルメな風が、ふわふわほわわ～ん☆｜リアクション

グルメな風が、ふわふわほわわ～ん☆

祭囃子が夜空に響く。厳かに、楽しげに。
　それより何より賑やかなのは、祭屋台をそぞろ歩く人々のからころと鳴る下駄の音と、楽しげな談笑の声。屋台からの呼び込みの声に、じゅぅぅぅぅ……と耳にしただけでゴクリと喉が鳴るような、何かの焼ける美味しそうな音。
　それにふらりと引き寄せられるように、卵城秘月がタコ焼き屋台の1つへと近付いた。

「こんばんは！　焼けてるかい？」
「らっしゃい！　ウチのはここらで1番大きいよ！」
「それ、どこの屋台も言いますよね……」

　そんな秘月に愛想よく話しかけてきた店主に、吉住志桜里が呆れたような息を吐く。けれども言われ慣れているのだろう、店主はワハハと笑うだけ。
　調子が良いですね、とこれには苦笑いを零した志桜里と、食い入るようにタコ焼きを――厳密にはその鉄板の向こうに見える店主の肉体美を見つめる秘月を見比べて、りんご飴をガリリと齧りながら吉住獅百合が片割れへと声を掛けた。

「ま、せっかくだし買ってったら？　そろそろメシ系も行っときたいじゃん」

　そんな獅百合の言葉には、確かに、と志桜里も頷きを返す。ルームメイトであり、クラスメイトでもある3人組で祭に来たは良いけれど、今のところ彼女たちが口にしたのは、かき氷やわたあめ、そして獅百合が今も手にしているりんご飴ぐらいのものだ。
　ひゅぅ、と口笛を吹いた店主が本格的に身を起こし、その筋肉の動きに秘月が人好きのする爽やかな笑みの下で息を荒くする。とん、とそんなルームメイトの脇腹を突いて窘めてから、志桜里は店主に向かってピッ、と指を3本立てて見せた。

「3つ頂けますか」
「あいよッ」

　そうして志桜里の告げた注文に、告げられた店主は威勢よく返事をしながら手際よくひょいひょいとタコ焼きをプラ皿にのせ、ぱちんと輪ゴムで止めていく。ひぃふぅみぃと数えてから、おまけするよとビニール袋にまとめてくれた。
　そんなたこ焼き屋台の隣では、射的が盛り上がっている所。盛り上がっている……否、何やら火花が散っている……？

（ぜってぇ勝つ！）

　そんな気合を込めて一方的にウォルター・Bをライバル視しながら、緑林透破は的を睨み据える。よくある、コルク銃で撃ち落とせたものを貰えるという屋台だ。
　その、穏やかならぬバチバチした視線を物ともせず、もしかしたら面白がってすらいるように余裕の表情で、ウォルターは冷静に狙いを定めた。とはいえ、最初の一発は銃の性能を確かめるためのもの、当たらなくて元々だと割り切っている。
　カチャン、と引き金を引く音がして、ウォルターと透破、2発のコルクが飛び出した。けれども互いに狙った景品とは、少しばかりズレている。
　それに、2人の後ろで見ていた稲積柚春が声を上げた。

「あぁ～、残念！」
「クソッ、外した」

「ふぅん……今のでそこに行くんだねぇ」

　柚春の声に応えるようで応えていない、男2人の反応は対照的だ。けれども2人が狙っているものは同じ――柚春が屋台の前で「あっ、あれ可愛いなぁ」と目を輝かせたぬいぐるみ。
　厳密には、その言葉に反応した透破がなら取ってやるよと屋台に近付き、ウォルターへと「センセーは外すのが怖くて出来ない、とか？」と挑発するようにニヤニヤして、仕方ないねぇとウォルターも参戦する事になった――というのがその流れ。さりとて、子ども相手とはいえ時には本気を出して『思い知らせて』あげるのも必要かもしれないねぇと、狙う軌道を正確に修正して。
　カチャン、と軽い引き金の音で2射目。思いの外早く飛んでいくコルクの行方を、じっと見守る3人から少し離れたお面屋台では、旅鴉月詠が購入したばかりの狐の半面で口元をしっかりと覆ったところ。

（半面、というかマスクみたいなものだな）

　するりと狐の面を撫でながら、月詠は胸の内でそう独り言ちる。どちらかと言えば目元を隠す、マスカレードマスクのようなモノが多い中で、この面は少し異彩を放っていると言っても間違いではなかった。
　帽子を目深に被っているせいもあって、遠くから見たらあたかも本物の狐のように見えるらしい。何人かがぎょっと立ち止まっては怯えたように月詠を見つめ、赤い瞳がくすりと笑みの光を浮かべるのを見て、ほぅ、と胸を撫で下ろす。
　これは面白い物を手に入れたと、ゆえに月詠は小気味よい気分で祭客の中を歩き出しながら、あちこちの屋台を覗き込む。コン、と小さく小さく鳴き真似をしてみたら、何とも愉快な気分になった。