じゃじゃ～～～ん！！　とドラが鳴り響き、テーブルにずら～り並べられてゆくのは、棒棒鶏（バンバンジー）にクラゲの酢の物。ピータン豆腐。チャーシューの前菜サラダ。
　本格中華料理フルコースの、はじまりはじまり！
「す……すっご。これ、まだ前菜なのよね？」
　さわやかなグリーンのチャイナ服をばっちり着こなす、落合 まゆら。
「ふふっ、これはまだまだ序の口よ」
　フリルのついたオレンジのチャイナ服が仙女のように愛らしい、姫神 絵梨菜。
「さっそくいただきましょうか。どれも美味しそうですねえ♪」
　淡いパープルのチャイナ服が大人びた魅力を演出する、巫部 紫苑。
　郷に入っては郷に従えとばかり、三人の美少女たちのチャイナドレス姿ときたらなんだか、まばゆいばかりです。


　絵梨菜がまずはクラゲなど取り分けながらに、
「私、中華料理にはちょっと詳しいの。食べ方のマナー、知ってる？　前菜に冷たい料理とあたたかい料理がいっしょに出てきたら、冷たいものから食べるのよ」
「そうなんだ？　知らなかった～」
　まゆらはクラゲの酢の物をまずはひと口。こりこりとした食感が新鮮です。
「わ！　クラゲって美味しいのね！」
「では私は、こちらの棒棒鶏を。……んんん！　いいお味です♪」
　紫苑は最初からハイスピードでぱくぱくぱくり。まだ序盤だというのに、手加減ナシ！
　実家が華僑系の絵梨菜は中華料理も食べ慣れているらしく、落ち着いてピータン豆腐をぱくり。
「ん、ここのピータンは当たりね。あ、前菜の次は『湯（タン）』のメニューが来たわ」
　フカヒレスープが卓に置かれ、ほかほか湯気が立つのを見るに、きらりと瞳が輝きました。
　あたたかいスープでお腹をあたためたら、いよいよ主菜、メインディッシュの登場です。
「あ、北京ダック！　中華料理といえばこれよね」
「上海蟹、大好きです～」
「こっちは、中国野菜のアワビ炒めね。美味しそう」
　次々に押し寄せる、味の奔流。ひと口いただくたびに、笑顔がこぼれます。
　主菜の次は、主食。あんかけ焼きそばにチャーハン、中華粥などが並び、テーブルの上は彩り鮮やか、見ているだけで楽しくなってしまいます。
　紫苑はお箸を止めることなく食べ続け、メニューを全制覇してなおとどまることを知りません。
　絵梨菜は焼きそばをちゅるるっといただいて、ん～～～♪　っとにこやか。
　まゆらは北京ダックのパリパリ感がやみつき。こちらのお店は皮以外のお肉もいっしょにいただけるので、ボリュームも満点です。
　お腹もふくれてきた頃にやってくるのは、点心。軽食の小さなシュウマイと春巻き、デザートの杏仁豆腐とごま団子もついてきて、舌を飽きさせません。
　も～最後まで、ぱくぱくぱくぱく、ぱくぱくり！
「っぷはー！　食べたー、大満足っ」
「私も！　やっぱり中華は最高ね」
　まゆらと絵梨菜がほっこりしてお茶をひと口すすったところで、紫苑がす、と手を上げました。
「フルコースですけど、追加注文もできますよね？」
「えっ？」
「小籠包を３人前お願いします～。あと、かに玉とエビチリとフカヒレ姿煮、杏仁豆腐のおかわりも♪」
「ええっ！？」
　尽きることのない紫苑の食欲に、ふたりは目を丸くするのでした。



　いっぽう、こちらは中華街。
「とたにーに！　こえ、なんれすか？」
「中華まんだよ。ことこちゃんのは肉まんで、ぼくのはあんまん」
「にくまん！　いーにおいれす！」
　見帰り沼の コトコは人間の姿で、お花柄の綺麗な服を着て、おめめはきらり。頭にはかわいいぽんぽんも乗せてもらって、わくわくです。
　お友だちの比嘉 桐太くんも、いつもよりなんだかカッコよく見えます。
「にくまん、たえていーれすか？　とー、おなか、ぺこぺこれす！」
「うん、いっしょに食べよう。いただきまーす」
「いたらきあー♪」
　はむっ、かぷりとひと口。お肉の旨みがじゅわわっとあふれでて、口の中いっぱいに広がって、コトコのお顔はふにゃふにゃ、にーっこり。
「おいひいれふ！　とー、こんなおいしーの、はじえてれす～」
「あはは、良かった、喜んでくれて。ことこちゃんに、たべてもらいたいなっておもったんだ」
　美味しいものを大好きな誰かといっしょに味わうのは、なんてしあわせなことでしょう。
「とー、うれしーれす。とたにーに、なかよくしえくれれ、いっぱいうれしーれす」
「ぼくもだよ。これからもよろしくね」
「あい♪」
　ふたりは肉まんとあんまんをはんぶんこずつにして、にっこりにこにこ。

「ずっと、ね♪」
　仲よしなふたりの向こうでは、稲積 柚春とウォルター・Bが、こちらも中華まんにしたつづみを打っております。
「ほら。食べなよぉ」
「わ……ありがとう、ウォルターさん！」
　ぱかっ、と割った肉まんを半分ずつ。ほかほかの湯気がほわわん。食欲、そそられちゃいます。
　けれど柚春は、ちょっと迷うようなそぶり。
（あんまりがっついちゃうのも、どうかな……）
　お年頃。女の子が肉まんをがっつりばくんといくのもいささかハシタナイような。けれど、女の子が豪快に食べてるところを見るのが好き！　なんて男性諸氏のご意見も時に耳に聞こえたりもします。
　ちらちら、ちらり。ウォルター先生の様子をうかがってみますと、
「あんむ」
　自宅にメイドさんがいるセレブな人とは思えないくらい、ぱっくん豪快な食べっぷり。
「ん？　どうしたの、冷めちゃうよぉ」
「あ、うん。そうだよね、いただきます！」
　豪快に……とまではいきませんけれど、柚春もちょっぴり大きく口を開け、ぱくりっ。
　もちもちの皮からジューシーなお肉が飛び出して、
「熱っ、美味し……熱っ！」
「あはは。あわてんぼうだねぇ、柚春は」
「むう。子ども扱いしないで、ワット！」
　からからと笑うウォルターに煙に巻かれ、柚春はぷうと頬をふくらませましたけれど。
　はっと気づいて、
（ていうか今、僕のこと名前で……！）
　顔を上げると、ウォルターはそしらぬ表情。
「ねえ、ウォルターさん、今名前で……」
「お！　次は北京ダックのテイクアウト、いっちゃおうかぁ。それとも、あっちのおこげ入りフカヒレスープがいいかなぁ？　杏仁ソフトクリームも美味そうだよねぇ」
「ちょ、ちょっとー！」
　あっはっは。ウォルターがそうして楽しそうにしていると、柚春も楽しくなってしまいます。なんだか親戚の子どもをあやしているみたいな扱いは、少々心外ではありますけれど。


「ふふ。無理に大人ぶること、ないんだけどねぇ」
「……えっ？　ウォルターさん、なんて……」
「なんでもないよぉ。チャイナ服、似合ってるじゃないかって言っただけ」
「え、あ。ありがとう……？」
　にかっと悪戯っぽい笑みに、今日は翻弄されっぱなしな柚春でありました。