LUCK COMING ～いつもそばに猫がいた～｜リアクション

LUCK COMING ～いつもそばに猫がいた～

　たこ焼きいか焼きべっこう飴、りんご飴に綿あめ、ヨーヨー釣りに金魚すくい。赤い提灯がずらりと提げられた屋台の軒も、扱われている品物も、いつも島のお祭りで見るものと何ら変わりはしないものの、
「にゃあ」
「にゃう、ぐるる」
　店先で呼び込みをしているのは猫だ。
　島のあちこちで見る普通の猫がたい焼きを焼いているかと思えば、軽トラックほどもある大きな猫が用心棒じみて店先に蹲っていたり、法被を着た白猫がどこかの立派なお宿の広告紙を配っていたり。
　白霧に包まれたかと思えばそんな見知らぬお祭りの只中に纏った覚えのない浴衣姿で立っていて、

(あら)
　天満七星は栗色の瞳をぱちりと瞬かせる。
(これは困りましたわ)
　学校帰りに見上げた夕空は、いつのまにか星々の輝く夜空に変わっている。今が何時なのかもわからないけれど、なるべく早くお家に帰らなければ家の者を心配させてしまうかもしれない。
(……ですけれど……)
　星や提灯の光をきらきらと反射している池に沿って並ぶ屋台からは甘かったり甘じょっぱかったり、色んな美味しそうな匂いが漂って来ている。ちょっとだけ、ほんの少しだけなら寄り道してもいいかもしれない。
　早足で追い抜いて行く猫たちにつられてうっかり足を早めた途端、舗装されていない道の石につまづいてしまった。傾ぐ身体をどうしようもなく目を丸める。地面に激突するばかりだった身体は、けれど、もふりともふもふのナニカに受け止められた。
「……あら？」
　きょとんとする七星の頬に、柔らかくて大きくて艶やかな三角耳がぱたりと触れる。ぅなう、と低い猫の鳴き声をお腹のあたりに聞いて、七星は大きな大きな猫に助けられたのだと気が付いた。
「まあ、ありがとうございます」
　おっとりと笑う少女に、化け猫はぐるるると喉を鳴らして返事をする。
　乗れ、と促され、断る理由もなくもふもふの背中に乗っかれば、化け猫は満足げにまた喉を鳴らした。そのままのしのしと祭り会場を歩き始める。
　背後にはぴこぴこと揺れる尻尾、目の前にはご機嫌にぴんと立った三角耳。
　乗せてくれるせめてものお礼にと七星が耳の後ろを掻いたり背中を撫でたりすれば、化け猫はごろごろと笑って眸を細めた。あんまり気持ちよさそうな様子に、七星もつられて微笑む。
「そうですわね……折角ですもの、楽しみましょう」
　猫がこんなにたくさんいるのなら、危ないことなんてひとつもないに決まっている。