LUCK COMING ～いつもそばに猫がいた～｜リアクション

LUCK COMING ～いつもそばに猫がいた～

「あっ……こぼしちゃいまいしたぁ」

　気持ちがいい海風が吹き抜けるシーサイド。しかしその爽やかオーシャンビューに全くそぐわない、何とも色っぽい吐息が風に乗り、周囲の雰囲気を一気に桃色にした。

「お口に……入らないですぅ」
「長いし……思ったより太いんですね」

　大丈夫。落ち着いて。ここは健全シーサイド（のはず）。
　発言者は添木牡丹。オッドアイを蠱惑的に光らす、己のたわわGメロン（←例えです）に夢と希望を山盛り詰めた黒髪美人。その艶めかしいぷるんとしたお口に出入りしているのは、ついさっき出店で買ったフランクフルト。彼女曰く『思ったより太くて長かった』ので、店員さんが張り切ってかけてくれたケチャップが、彼女の張りのある胸にぽたりと落ちてしまったのである。―――練乳じゃなくて本当に良かった！！

「ほんとドジですねぇ、私は」
　牡丹は小首を傾げると、ちょっと片手で自分の胸を持ち上げてみる。うまくいけば舐めとれるかな、なんて思ったのだ。自分の腕が隠れてしまうくらいの重量感のある胸を抱え、ペロリと赤い濡れた舌を伸ばす。結局は届かなかったが、男どもの足を止め、鼻の下を伸ばさせるには十分すぎる行為だったので、あちらこちらのカップルで言い争いが起きてしまっていた。

　そんな事などお構いなしに、無意識カップルクラッシャー牡丹は胸を抱える上げる事はやめ、もぐもぐとフランクフルトを食べる事に専念していた。取りあえず両手を空けようと考えたのだ。まあその食べ方も何とも色っぽいものだったが。
　周囲がごくりと横目で生唾を呑む中、太くて長いフランクフルトを食べ終わった牡丹。串を捨てて目下のケチャップと対峙した。
　……ティッシュ無いんですよねぇ。口に収まらず零れてしまうなんて考えてなくて。全部受け止められなかったのは未熟でしたねぇ。
　潤んだ瞳で己の谷間を見つめ、ほうっと顔を上げた牡丹。と、足元に柔らかい感触がした。
「あら、猫さん？」
　黒猫が牡丹の白い足にまとわりついている。牡丹がしゃがむと、猫はにゃあと一鳴きして彼女の胸に顔を近づけた。
「ケチャップが舐めたいんですか？　でも、猫さんにはケチャップは良くないんですよ」
　黒猫ににっこり笑って言うと、牡丹はその細い指で胸の谷間のケチャップを取り、自分の小さな口で指を吸うように舐めとる。そして猫を抱き上げると、そっとその鼻にキスをした。
「ドジな私ですが、猫さんを守るくらいはさせて下さいね」
　猫はキョトンと首を傾げたが、にゃあと嬉しそうに鳴いて牡丹の胸にすりすりと顔を寄せた。
「あら、甘えん坊さんですねぇ。ふふ、可愛い」
　牡丹が抱き寄せれば、猫は極上の柔らかい胸に包まれご満悦そうだ。

　かくして。
　我知らずカップルクラッシャーになっていた牡丹。今はその魅惑的な胸に思いがけず一緒になった黒猫を抱き、まるで仲睦まじいカップルのように楽しくシーサイドを散策するのであった。