三毛猫。白黒猫。キジトラ猫に、黒猫も。
「へっへ～、猫いっぱいじゃん！　これがハーレムってやつ？」
『ちょっと違うと思うニャ～』
　三毛猫のあくびまじりな気のないお言葉ですけれど、そうして会話をかわすだけで佐藤 プリンス 雄太は、嬉しくなってしまいます。
『雄太は、みんなと遊ばないのニャ？』
「え？　ああ、カプギア？　そうだなあ」
　つみき検定とやらに一喜一憂する、自分と同じお年頃な子どもたちの輪にまざってはしゃいだり騒いだり、も楽しそうではありますけれど。
「こうやってキミらとおしゃべりしたり、モフモフしてるのも楽しいからさあ。モフモフモフ」
『きゃあー！　雄太のエッチニャー！』
『でも、雄太の撫で方ってニャんか、気持ちいいんだニャア』
『うんうん。いい感じだニャア』
『もはやプロの撫でさばきニャ～、ああ～気持ちええ～』
「そうかな？　いやぁ、それほどでも♪」

ピースっ☆
　イタズラ大好き。女の子と見れば脱がしにかかったりおさわりしたり、とイマドキ漫画でも珍しい、由緒正しきマセガキな雄太のお手並みはもはや、にゃんこをもうっとりとろ～んとさせるほどに進化した……のかもしれません。
　ちなみに猫たちとこうしておしゃべりしたりイチャイチャできるのは、雄太のろっこんによるものです。猫好き垂涎、ニャんてうらやましい能力！
『でも、あのツミキっていうのも、ちょっと楽しそうだニャー』
『ぺしってして、ころころして、うにゃにゃにゃってしたらきっと面白いニャー』
『まるっこいのを前足でたしたししたいニャア』
「そうなの？　みんなおもちゃが好きなんだねえ」
『それにニャー、ここのダガシヤには、オヤツをくれる人間もいっぱいいるのニャ』
『そういえばそろそろ、おなかがすいてきたニャア～？』
『だれかオヤツをくれる、やさし～い人間はいないもんかニャア～？』
　んじ～～～っ。雄太へ集中する、モノホシソーな視線、つぶらな瞳たち。
　雄太は苦笑いして、
「あはは、わかったわかった！　ニボシ持ってきたから、みんなにあげるよ」
『さっすが、雄太ニャ！』
『オトコマエだニャ～』
『メスにもモテモテニャ～ね！』
「ゲンキンだなー。まったくもう」
　なんて猫たちのニボシパーティーを主催しつつ、しばらくおしゃべりに興じておりましたら。わあっとひとつ歓声が上がり、どうやらカプギアつみき検定もひと段落がついたようです。
　カプギアパーツの入ったガチャガチャにもたれながら、雄太もなんとはなしにそれを眺めていたら、ぱちり。子どもたちと目が合いました。
「なあなあ。あんたもいっしょに、遊ばないかねぇ～？」
「楽しいんだよだよー！」
「おおっ、にゃんこがいっぱいッス！　みんなでつみき遊びでもするッスか？」
　なんて嬉しいおさそいに、雄太も思わずにっこりです。
「サンキュー！　じゃ、いこうよみんな」
『『『うにゃにゃ～～～！』』』



　なるほど、ここは猫の島。まわりを見まわせば確かに、そこらじゅうに猫たちがおりまして。
　例えばそう、屋根の上。塀の上。地面の上に、古い郵便ポストの上。ガチャガチャのキカイの上なんて、定番のお昼寝スポットのようですし。
　そしてほら、誰かさんのお膝の上にも、にゃんこはごろりん、ふにゃにゃにゃ～ん。
「先生、先生！　見てください、にゃんこが！　私の猫じゃらしに！」
「あはは。夢中だね」
　綾辻 綾花の手のフリフリに合わせて、白猫ちゃんはぴょい、ぴょいん。うにゃうにゃ、うにゃん！　まっしぐらです。
　楽しそうに、まるで魔法の杖みたいに猫じゃらしを振る綾花の花咲くような笑顔には、早川 珪先生も微笑ましく目を細めます。
「えーっと。綾辻さん？　おバアちゃんにオススメされたんだけどね」
「はい？」
「いかにも某炭酸飲料っぽい赤い缶のコーヒー風飲料と、某スポーツドリンク風でさわやかな青い缶の紅茶風飲料と、どっちがいい？」
「な、なんですか、それ？」
　自販機のジュースを買おうとしたら、まねきバアのセールストークにうっかり捕まってしまった、人のよい珪先生でした。なんかヨクワカンナ～イ、いかにも駄菓子ッポ～イ清涼飲料水を両手に、ちょっぴり困ったニガ笑い。
　一瞬の逡巡をはさみつつ、受け取ったブルーの紅茶風ドリンクをおそるおそるにひと口。飲んでみますと、
「あ、意外と美味しいです。……美味しいですよね？」
「よく分からないね……まあ、美味しいんじゃないかな。うん」
「何味、って形容しがたい味ですね……」
　駄菓子ってそんなもんです。アイマイなのが、いいんです。
　近くの古本屋さんをふたりで巡って、その帰りにひとやすみ。たまには駄菓子屋さんで、というのもオツであろうと据えられたベンチに座ってみたところ、これが猫いっぱいの思いのほか素敵スポットで、綾花のフリフリは加速しました。うにゃっにゃにゃにゃ、とおっにゃーん！
「ふふ、上手ですね。あら？　あなたもいっしょに遊びますか？」
　ひょっこり横から顔を出した黒猫ちゃんもにゃっ、うにゃっ。
「はは。綾辻さん、モテモテだ」
「しあわせです～。こんな穴場スポットがあったなんて！　あとで猫メモに書いておかなくっちゃ」
　珪先生はドリンクを手に、ベンチの上に置き去りにされたさみしいつみきをひょいっと群れに戻してやってから、綾花の隣へ腰かけます。
「ふう。今日はずいぶん歩いたね。綾辻さんは、収穫はあったかい」
「はいっ、たくさん！　珪先生がお好きそうな本もありましたよ」
「へえ、それは楽しみだ。後で見せてくれるかい」
「もちろんです♪」
　目の前で遊ぶ子どもたちの無邪気に、猫たちのあけっぴろげな甘えように。ふたりで本の話などするときの、綾花のいささかに油断して緩んだ、いかにも楽しそうにはしゃぐ表情に。
　ふわり、珪先生は微笑みます。
「あ……」
「うん？　どうかしたかい」
　ここのところやけに近く感じられる、彼の自分に対する絶妙な距離感が、ふいに綾花の胸をどきどき、弾ませました。


「いいえ。その、ほら……子どもと猫の取り合わせって、素敵だなって」
「ああ、そうかも。癒されるよねえ」
「はい……とっても」
　なんて、綾花の目はほっこりして子どもたちを見つめる、珪先生の横顔に注がれているわけですけれど。
　そんなふうにしていると、今度は白猫ちゃんが綾花の膝に乗っけた前足をたしたし、たし。はやくフリフリしてよー！　と言わんばかりに、にゃあにゃあお。
「ふふ……」
　猫じゃらしフリフリ。にゃんこはごキゲン。
　空にはまぶしい太陽、白い雲ぷかり。見上げれば空だって、目が覚めるほどに青くって。
　そんでもってお隣には、いい感じに落ち着いて、謎飲料でほうっとひと息、な珪先生。大好きなひと。そのあんまりにも素敵な、この横顔。
　なんてしあわせ。いいきもち。これ以上は、な～んにもいりません。
　とまで思ったかどうかはさておき、綾花の午後はゆったりまったり、過ぎてゆきます。大満足です。
「そうだ、綾辻さんにちょっと相談したいことがあったんだよ」
「相談ですか？」
「うん、図書委員のことでさ。そろそろ、図書室のオススメ書籍特集のコーナー、新しくしたいと思っててね」
「あ、そういえばそんな時期ですね！　じゃ、新しいテーマを考えなくっちゃ」
「そうそう。今日はそれを相談したくてね。楽しくて、すっかり忘れてたよ、ははは」
「ふふ、私も楽しいです。あ、この前入ってきた新しい蔵書に、林見 富比古がありましたよね？　あの小説をメインにして、似たテーマの本をそろえれば……」
「ふむふむ。なるほど、普段本を読まない人にもとっつきやすいかもしれないね。うん、すごくいいよ」
　綾花の図書委員としての働きもいまやすっかりこなれてきて、時にこうして、司書教諭さんにアドバイスを求められることもあるほどです。
　そして綾花にとっては、日常の延長のこんなやりとりも、珪先生となら至福のひと時に変わります。
（なんて安直な私……でも）
　お隣には大好きな彼の、あんまりにもカッコイイ、この横顔！
（しあわせです～）