◆商店街の駄菓子屋さん

　太陽さんさん、とある夏の日のこと。旧市街の参道商店街の一角に、わー！　きゃー！　子どもたちの元気な声が響いております。
　駄菓子店『まねき堂』は、築ウン十年の年季バリバリな木造家屋があたたかくなつかしい、昔ながらの駄菓子屋さんです。
　店内を覗いてみればずら～りずらりと並ぶ、定番・王道な駄菓子たち。『うみゃ～棒』に『かっちゃんイカ』、『キュウリ次郎』に『チョコキャット』、『きなこスティック』、『ネコメン』に『やったぜ！メン』。『チャラチャラしてんじゃにゃ～よ！』などなど……見ているだけで飽きない、この充実のラインナップ！　駄菓子屋にありがちな、ナゾのオモチャもいっぱいあります。
「あらあら。みんな、よう来たねえ。ゆっくりしておいきよ～」
　そんな古き良き駄菓子屋さんを切り盛りするおばあちゃん、通称『まねきバア』のいつでも朗らかで、なんとも安心する笑顔があるからこそ、子どもたちもこぞってここを訪れるのかもしれません。
「ガチャガチャにはカプギアの最新パーツも入荷しとるからね。公式大会の新レギュレーションにも対応済みだでな。カスタマイズで分からないことがあったら、気軽にばあちゃんに聞いとくれ～」
　……なんてしたたかな商売人っぷりやら、ご年配らしからぬ最新ガジェットへの適応力やらもまた、人気の秘訣かも。



「ふふふ。こんなに買っちゃった」
　両腕にずしりと食い込む重量感。持ち歩くには正直重たいけれど、月原 想花は満足げ。
　抱えた紙袋には、駄菓子がぎっしり！　定番のものから変わり種まで、ずいぶんと買い込んでしまいました。紙袋からぴょこんととび出た巨大麩菓子などは実に、食べごたえがありそうです。
「よーし、これで心の栄養補給はバッチリだ。帰ったらあのシナリオのアクション、完璧に仕上げないと……！」
　想花の趣味はいわゆる、ＰＢＷ（プレイ・バイ・ウェブ）というヤツでして。インターネット上のコンテンツでキャラクターを作成し、シナリオに参加したりイラストを作ったり、ロールプレイを楽しんだり、なんて遊びです……おや、なんだかみなさん、聞き覚えがありますか？

例えばこんなキャラ？　
　シナリオのなかでいかに自分のキャラクターを大活躍させるか？　定められたルールにおいて最大限可能なアクションを見極めたり、執筆を担当するゲームマスターの傾向やクセを踏まえた行動の模索や駆け引きであったり、そこにはまーあれこれとコツがあったりもするわけで。ベテランＰＢＷプレイヤーな想花をして一筋縄ではいかず、時として並みならぬ熟考を求められたりもするのです。
　想花がゲットしたお菓子の山は、そうした思考の海をがっつり泳ぎ切るための、まさしく心の栄養補給のため。無論それらをいただきながらアクションを突きつめるひと時は、想花にとって至福の時間なのでした。
「むっふふー。でっかいサンマさん、ゲットだにー」
　と、そこへやってきたのは、同じく駄菓子を買いあさっていた七音 侑。手にしているものを見て想花は思わず目をむきました。
「でかっ！　サンマさんもでかいけど、パッキーもでかい！」
「いいでしょーこれ？」
　と侑はご満悦。

「エビバデパッキー！」
　侑といえばお菓子、お菓子といえば侑！　もちろん駄菓子にも一家言アリな彼女がゲットしたのは、サンマさんのぬいぐるみの中にむぎゅっと入った駄菓子詰め合わせに、いかにも駄菓子屋さんっぽい巨大Packyです。
　といってもこれ、そんじょそこらのフツウな駄菓子じゃあありません。レアモノです。ほかではめったに見られない希少品なのです！
「このお店、こういう珍しいのがいっぱいあって、すごいよねえ」
「あ、そうなんですか……？　それ、珍しいんですね」
「そうだよー、すごいんだにー！」
　思わず力説しちゃう侑さん、お菓子には大いにこだわりがありました。
「ここって定番の駄菓子もばっちり揃ってるけど、それ以外にもレアなお菓子がいっぱいでさ！　このでっかいパッキーは本土に行かないと手に入らないものだし、逆にこっちのサンマさん駄菓子セットは寝子島限定商品で、どっちもめったにお目にかかれないんだにー。今日は買えてラッキー♪　ちょくちょくこのお店覗いてるとねー、こういう掘り出し物があったりするんだー」
「へえ～……」
　コンビニやネット通販の普及もあり、商品購入に多様な選択肢があふれる現代人にとっても、ここ『まねき堂』がほこるラインナップは魅力的なようです。見れば子どものみならず、昔懐かしい駄菓子を求めるオトナなお客さまの姿も、これがけっこう目につきます。
　想花は今日初めて、たまたま訪れただけでしたけれど。今では確かに、また来てみようカナ、ってな気分にもなっているわけで。
「駄菓子屋って、いいですね……」
「うんうん！　お菓子もだけど、ほら」
　と侑が指さしたのは、駄菓子屋の軒先。子どもたちが走り回って、わいわい騒いで、元気に満ちあふれております。
「ちっちゃい子たちがああやって、わいわい遊んでる風景がまた、いいんだにー。こっちまで元気になっちゃうよね！」
「そうですね。子どもは無邪気だな～……」
　自分の小さい頃は、あんなにも元気だったろうか。なんてとりとめなく考えていたら、侑が言いました。
「ねえねえ！　いっぱいお菓子買ってたよねえ。トレードしない？」
「と、トレード？　ですか？」
「そうだにー！　自分では買わないけど美味しそうなのって、結構あるんだよね。ウチのサンマさんセットからも大放出♪　欲しいのあったら、交換しよ～」
　なるほど確かに、楽しそうです。
　ふたりは子どもたちの横でずら～り、マイお菓子を御開帳。いくつものトレードが成立して、ほくほく！　食べるのが楽しみですね。