LUCK COMING ～いつもそばに猫がいた～｜リアクション

LUCK COMING ～いつもそばに猫がいた～

　１回戦第二試合は斐美VS昴であったが。
「あっ、見てスバルん！　お月様に白鳥の湖を踊るバレエダンサーが！」
「え、どこどこ」
「えいっ」
　騙されやすさと天然ボケ気質が災いして、昴は斐美に勝利を奪われた。
　昴の気質を知り尽くした斐美だからこその戦法であった。
「バレエダンサー……見たかったな」
　負けたあとも昴は大真面目に月を見上げている。
（うん……それ、口から出まかせの嘘だからね）
　と昴以外の皆が思ったが、誰も口には出さなかった。
　
　トーナメント表によると、準決勝はシードを取っていた獅百合と、１回戦第一試合の勝者の志桜里。決勝戦はこの試合の勝者と、１回戦第二試合の勝者である斐美となる。
　歪なトーナメント表だが参加人数のせいで仕方がない。

「クロォ、わかってると思うけど手加減なしだよ」

「当然よ、シロ」

　手を組みあう。もとはひとつだった白夜叉と黒夜叉の一騎打ちだ。
「八卦よい――残った」
　香蓮の古風な掛け声で、ぐ、と互いの腕に力がこもる。
　開始直後から試合は膠着状態に入った。動きはないが、空気がびりびりと緊張している。
　互角か。いや、やはり体格のよい獅百合が有利か。
　1ミリ、2ミリと志桜里の腕が傾いていく。
「く、……っ」
「悪いね……っ、これは、あたしの勝ち」
　いうや否や、獅百合は全体重を腕に乗せ、一気に志桜里の腕を押し倒した。

◇

　そしていよいよ決勝戦。
　相対するは斐美と獅百合だ。
　体格だけ見ると猫と獅子。
　差は歴然で、当然腕力も獅百合のほうが勝っているように見える。
「シロやん、やろっ」
「どっちが勝っても恨みっこなしよ、ビビちゃん」
　先ほどの志桜里との試合で見せた残酷な笑みはどこへやら、斐美に対しては女子高生らしい人懐っこい笑顔を見せている。
　ふたりは拳を組みあった。
（――おや）
　香蓮は斐美の姿勢に目を見張る。
　肘をできるだけヘソの近くに構え、支点となる肘を９０度に曲げた綺麗なかたちだ。
（力点となる背中、作用点となる拳の位置を意識できていますね）
　体格の小さな斐美が、自分より大きい獅百合や志桜里と組み合う中で、自然と身に着けた感覚なのだろう。
（そうです、テコの原理をうまく使って――）
　香蓮は試合開始の合図を告げる。
　直後、斐美は獅百合の指先を引き込んで吊り上げ、一気に倒した。

「トップロール……！！」
「決まったァ！」

　決まり手は釣り手。トップロールともいわれ、力の弱い者でもくぎ抜きのようにテコの原理を利用して腕力的に強い相手をも倒せる技だ。などと、口で言うのは簡単だが、やってみせるのはそう簡単ではない。それを斐美は獅百合相手に綺麗に決めて見せたのだ。

「やったー！　ウチが優勝っ！」

　よくやった、と仲間たちは斐美をぐりぐり撫でまわす。
「えーっと、そんでぇ……あれ、なんで勝負してたんだっけ？」
「忘れた」
「パンツがどうとかじゃなかった？」
「どうでもいいよ。ビビちゃん今度アイスおごってあげるね」
「ありがと。約束な！」
　古武術道場の面々は、喧嘩の原因なんて細かいことは気にしない性質だった。
　死合えればそれでいいのだ。