LUCK COMING ～いつもそばに猫がいた～｜リアクション

LUCK COMING ～いつもそばに猫がいた～

【鴻上彰尋と七夜あおいの場合】

　鴻上彰尋は、七夜あおいを誘い、夕暮れの寝子ヶ浜海岸の砂浜で砂のお城を作っていた。

『ラッキーキャットを探しに行かないか？』
　彰尋はそう言ってあおいを誘い、彼女はそれを快諾してくれた。
　その時点で、本音を言えば、彰尋はラッキーキャットを見つける必要はなくなっていた。
　あおいと砂浜に来られた時点で、彰尋は充分に幸せだったからだ。彰尋はそれぐらいにあおいのことが好きだった。
　もっともそんなことを口に出せるはずもなく、ショートパンツ型の水着にパーカーという出で立ちでラッキーキャットを探していたときに、あおいが

「砂のお城を作らない？」
　と誘ってくれたのだ。断る理由などあるはずもなかった。
「うーん。意外と難しいね」
　あおいは一生懸命に砂でお城をつくりながら、しかしなかなか思うようにいかないのか、可愛らしい顔に渋面をつくる。水着の上にオフショルダーのトップスとややローライズぎみのレギンスを身につけた彼女の姿は彼女に想いを寄せる彰尋には少々目のやり場に困るほど。
「……そうだな。こうしてみたらどうだ？」
　できるだけ、あおいの素肌に目をやらないようにしながら、彰尋はそっと作りかけのお城に手を加えていく。
　彰尋は、家事はどれもそつなくこなせる程度には手先が器用だ。
　実際、彼が砂を積み上げていくとあおいがするよりもはるかに早く、完成度の高い城ができあがっていく。
「わあ、凄い。彰尋くん、器用だね♪」
　水着姿のあおいが無邪気な笑顔を向けて、そう言うと彰尋は顔が赤らむのを抑えられなくなる。
「い、いや、それほどでもないさ」
　ついついビキニ姿の彼女の素肌にも目がいってしまい、慌てて目を逸らす。
「あ、そうだ。ねぇ、もう少しだけ形を変えてもいい？」
「ああ、あおいさんの好きにしてくれたらいい」
　もとより砂で創りたい城があるわけではない。
　あおいが喜んでくれるなら、可能な限りどんな注文にも応えるつもりでいた。
（……でも、ここから何をどうするつもりなんだ？）
　彰尋は興味津々であおいの一挙手一投足に目を向ける。
　そんな彼女が彰尋の手を借りて作り上げたのは……
「じゃーん♪　見て見て、猫のお城だよ♪」
「……っ」
　じゃーんと誇らしげに完成したお城を見せるあおいの笑顔に、彰尋はしばし見とれてしまう。
「あれ？　可愛くない？」
「……いや、可愛いよ」
　あおいさんがと喉まで出かけそうになった言葉を、彰尋はすんでのところで飲み込んだ。心からの言葉だったが、さすがに空気を読んで自重する。
「そう？　やったぁ♪　あ、でもラッキーキャットは結局見つからなかったね」
「いや、見つけたよ」
「え？　どこどこ？」
　キョロキョロと周囲を探すあおいの姿に、彰尋はわずかに微笑む。
（ここにいるよ。あおいさんが作ってくれたんだ。俺のラッキーキャット）
　だって、彰尋はあおいのあんな笑顔を見られただけですでに望外の幸福感じていたのだから。