LUCK COMING ～いつもそばに猫がいた～｜リアクション

LUCK COMING ～いつもそばに猫がいた～

【御巫時子と五十嵐尚輝の場合】

　その日、御巫時子は心から慕う寝子高教師である五十嵐尚輝と一緒に夕暮れの寝子ヶ浜海岸にやってきていた。
（夕暮れの海岸に尚輝先生と二人……。素敵です……）

『一緒に幸せ猫を探しに行きませんか？』
　という、五十嵐先生からの嬉しすぎる誘いがきっかけが、今回二人が寝子ヶ浜海岸にやってきたきっかけだった。
（本当は私の方からお誘いしようと思っていたのですが、まさか尚輝先生の方から誘ってくださるなんて……）
　時子は、顔が幸せで蕩けてしまわないように気を付けながら五十嵐と肩を並べて歩く。
　時子は可愛らしい水着の上にパーカーを羽織り、五十嵐もハーフパンツ型の水着の上にパーカーという出で立ちだ。派手さはないが、落ち着いた雰囲気の二人にはよく似合っている。
　海の向こうではウミネコが鳴き、岸辺にはハイビスカスの花が見頃を迎えていた。
　本当に素敵だ、と時子は思う。夏の終わりを彩るこの景色も。隣を歩く尚樹先生も。
　それにしても、
「猫さん達、探せばそれなりに見つかりますけど、どれがラッキーキャットかはわかりませんね」
　ふとここに来た理由を思い出して、時子はあたりを見まわしながら言う。
「御巫さん。足元に気をつけてください。さざ波に足を取られては危険ですし、海岸にはよくシーグラスも落ちていますから」
「あっ、はい。ありがとうございます」
　言われてみると、確かに浜辺のあちこちに色とりどりのガラス片が打ち寄せられていた。波間にさらわれ、夕日を反射してキレイだが踏むとかなり危険だろう。
（……本当に尚輝先生は優しい人ですね）
　わかりきっていたことだけど、こうしてその優しさに直に触れると、より一層それを実感できる。だからこそ、自分は彼のことを好きになったのだろうとも。
　と、そのときふと五十嵐先生が時子のそばを離れて岸辺の方に歩きだした。
「……尚輝先生？」
　時子の呼びかけに、尚輝は応じず、ある一点で立ち止まると無言のまま少し笑みを浮かべておいでと手招きをする。
（いったいどうされたのでしょう？）
　時子は五十嵐先生のもとに近づいていく。
「尚樹先生、いったいどうされた……え？」
　時子の声が驚きに途切れる。
　五十嵐先の手がそっと時子の顔に伸ばされたから。
（え……？　え……？　えっ……！？）
　予想外の急展開に心臓が爆発しそうになりつつ、時子は思わず目を閉じてきゅっと唇を引き結ぶ。
　しかし、五十嵐先生の指は時子の頬ではなく長い髪に伸ばされた。
　かさり、と何かが優しく髪に触れる感触がしたかと思うと「できました」と五十嵐先生の声がする。
「……？」
　時子はおそるおそる目を開ける。髪に感じる重みにそっと手を伸ばす。花びらの感触だ。何かの花が時子の髪にくっつけられている。
「ハイビスカスの花です。御巫さんに似合うと思って」
　自分でもらしくないと思うのか、五十嵐先生は少し照れ臭そうにそう言って笑った。
　その瞬間、かつてないほど時子の心臓が高鳴った。
「……ありがとうございます」
　時子はまだ少し照れ臭そうな五十嵐先生の顔を上目遣いに見上げながら、輪をかけて照れた顔でそう言った。
　結局、その日、幸せネコは見つからなかった。それでも、時子はもう充分幸せだった。