トライアド・ディフェンダーズ｜リアクション

トライアド・ディフェンダーズ

【セイガの塔・２】

　８人目の防衛者、橘勇は、単騎で塔と揚陸予想地点のほぼ中間地点で仁王立ちしていた。
　手には巨大な戦鎚。腰には短剣２本を差し、機動性に富む革鎧と皮手袋で固めている。
　その顔と心は氷のように冷たい。
　しばらくすると、眼前に亜人の軍勢が空と陸の両方から近付いてくるのを目視。
　橘は戦鎚を構えた。
「囮として、ここで敵勢力を削っておければ……」
　橘、独断で敵陣への突撃を敢行！
　他のメンバーが作戦の擦り合せを行っている間、彼はネコ島城で装備を整え、ここへ直行していたのだ！
　亜人側も橘を視認。
　たった１人で何ができる、と鼻で笑いながら、ハイデーモンが攻撃号令を下した。
　一斉に躍動する前衛の亜人戦士たちを、橘の巨大戦鎚が横薙ぎに打ち払った！
　オーク重装歩兵の鎧を軽々凹ませ、すかさず次擊で１体のオークの頭を潰した。
　左右からオーク２体の斧の反撃を受けるも、橘のろっこん『硬化』で薄皮一枚も傷付ける事ができない。
「無駄だ」
　橘は戦鎚を左のオークの顎目掛けてカチ上げると、一歩踏み込んで青眼からひと思いに振り下ろした。
　豚鬼の身体がジャムみたいにグズグズになったのを確認すると、すかさず右のオークの腹を強かに殴打。
　打ち付けた反動を利用して、更に逆回転に戦鎚をスイング！
　遠心力が乗った強烈な衝撃が、重装歩兵の頭を吹き飛ばしていった。
　前衛を打ち払ったのも束の間、今度はゴブリン兵による矢の雨が襲い掛かる。
　ろっこんで防ごうと念じるが、そこへハイデーモンの上空からの一撃が橘の背中にヒット！
　体の前半分を固くしようとしていた橘、思わぬ痛撃に集中力が乱れる！
「しまっ……！」
　身体に突き刺さる矢、矢、矢！
　かろうじてろっこん発動が間に合ったものの、浅くはない傷を負ってしまった。
　そしてハイデーモンがオークの死体に呪文を施すと、その死体の肉がひっつき、ゾンビとして復活を遂げてしまう！
「おい、そんなのアリかよ」
　再びオークを潰そうとする橘だが、デーモンたちに阻まれてうまく前に進めない。
　まずいことに単騎であるがゆえ、手数が圧倒的に足りない。
　その間にデーモンがスケルトンを召喚して橘を波状攻撃しだす。
　後方には敵本体も迫ってきている。
　足止め効果はあったようだが、如何せん、交戦前より敵戦力が増えてしまっているのは痛恨のミスである。
　更には戦鎚をハイデーモンに奪われ、脇に差していた短剣もすぐに切れ味が悪くなってしまう。
　破れかぶれでデーモンに投擲するもあっさり躱され、そのまま橘は物量に押し潰されて成す術がない。
　完全に藪蛇な結果に終わった。
　遂にろっこんの使用回数も尽き、橘の体はゴブリン兵の大量の矢に射抜かれ針山と化してしまった。
　橘は膝を付き、血を流して為す術もなく言葉を零す。
「み、みん、な……、すまない……」
　最後に橘が見たのは、自分の身体を亜人たちが喜び勇んで貪る光景であった……。

　橘勇：戦死