トライアド・ディフェンダーズ｜リアクション

トライアド・ディフェンダーズ

【ネコナキの塔・５】

　巫女リカは防衛隊全滅の知らせを逃げおおせた桜庭の口から聞くと、「そうですか」と表情を変えずに一瞥くれるのみだった。
「リカ、ごめんなさい……」
「いいえ、あなたたちはよくやってくれました」
　リカは塔の屋上から迫り来るゴブリン兵達を見下ろしていた。
「私はこの塔とともに最期を迎えます。あなたたちは城へ撤退をして――」
「そんなの、駄目なのだ……！」
　半死半生の後木が声を振り絞る。
「リカちゃんが死んじゃったらヤヨちゃんや島の人はきっと悲しむのだ……猫鳴館がシロアリで崩れちゃうのもヤだけど命には代えられないのだ……！」
『いきてください』
『おねがいします』
　重傷の小山内も力を振り絞り、スケッチブックに言葉を紡ぐ。
　顔を伏せるリカ。
「塔の巫女として、最後までここにいる義務があるのです……」
　悲壮な覚悟を伝えるリカ。
　テコでも動かないと皆が感じた。
　その時、何故かふらりとやってくる吉祥寺黒子！
　その後ろから、楽器格闘術の使い手の兵士長ツドメと軽装のメモリンが現れた。
「……リカ様。ヤヨ様のご命令でお迎えに上がりました」
　ツドメが厳かな低い声で申し出た。
「兵士長と放浪の旅から帰ってみたら……、まさかこんなことになってるだなんて。リカ、ここで死ぬくらいなら挽回して亜人を見返してやりましょう？」
　クールにメモリンも言ってのけた。
　どうやら２人は面識があるようだ。
「いやぁ、俺はやっぱ運がいいぜ！　菜々緒に似たメモリンとその師匠が偶然にも城へ帰還してくるんだからよぉ！　間に合ってよかったぜ、とっとと逃げるぞ！」
　吉祥寺の無意識ろっこんが２人を引き合わせ、救援に間に合ったのだ。
　リカは観念したのか、彼らに付いていくことにしたようだ。
「でも、ナナオ、じゃなかった、メモリン。その格好って……」
　桜庭が思わず苦笑いする。
　なぜなら、メモリンの姿はあからさまにニンジャなのだ！
「全然忍んでないよねー」
「あら、おかしいわね？　アサシンとしての素性を隠すのに、どこから見ても怪しくないはずなのに？」
　メモリン、全く自覚がなかった。
　なんていう残念な感性なんだろうか。
　このウカツ！
　隣のツドメは無言で遠い目をしていた。
　彼らは敗北の印の狼煙を焚いたあと、塔の最下層を目指した。

　桜庭たちは塔から脱出すると、目の前にソギィ率いるゴブリン兵たちと鉢合わせした。
　構える両者。
　だがソギィがそれを遮った。
「サッサト行キナ。負ケ犬ニ興味ハナイヨィ」
　そういうと、塔に向かって火炎弾を数発叩き込んだ。
　燃え上がる漆黒の塔を眺めるリカの頬を涙が伝う。
「私は、守れなかったのね……」
「キミが指揮官？　どっかで見た顔だね。刀くんたちは……？」
　桜庭の問いに、ソギィは不敵な笑みを浮かべるだけだ。
「そう。この世界の刀くんたちは戦死したんだね……。ねえ、君たちの目的は？　本当にボク達を食べるために来たの？」
「ダッタラ、ドウシタンダイ？」
　ソギィは別段、この問い掛けに乗ってくる様子でもない。
「人間ダッテ、勝手ニ野山切リ開イテ、ソコニ住ンデル動物ヲ捕ラエテ喰ラッテキタダロウニ？」
　ソギィは吐き捨てるように桜庭へ告げる。
「亜人ガ人間ト同ジ事シテ、何ガ悪イ？」
「……そっか。キミたちとは分かり合えない。今、ボクは理解出来たよ」
　悲しみに暮れる桜庭は、そのままリカたちとともにネコ島城へ撤退する。
　ソギィは兵を動かさず、燃え尽きていくネコナキの塔をただニヤニヤしながら眺めていた。

　ネコナキの塔、陥落……！！