トライアド・ディフェンダーズ｜リアクション

トライアド・ディフェンダーズ

【セイガの塔・４】

　デーモンたちが弓の射程圏内に入ったと判断した天満は、斉射号令を下した。
「今ですわ！　各員、目標は前方のデーモンです！　放ってくださいまし！」
　矢尻の風切り音とともに８人の矢がほぼ同時にデーモンに向かって発射された！
　油断をしたデーモンは緊急回避するも、背中に天魔の放った矢が突き刺さる！
　悲鳴を上げるデーモン！
　そのデーモンの額に魔法陣が浮かび上がると、体がみるみる帯電してくるではないか！
「まさか、攻撃魔法！？」
　デーモンは蘇生術を使うと聞いていたが、魔法が使えるなら攻撃魔法を習得してもおかしくない。
　実際、ゴブリンシャーマンは火炎弾魔法が使用できるのだから、デーモンのような上級亜人となれば電撃魔法も容易く扱えるのだ！
「そうは、させへんで！」
　浅沼が口笛を高らかに吹いたその時！
　彼の身体に異変が起きた！

　浅沼のろっこん『有翼人』、発動！
「本日は快晴でお日柄もよく、うってつけのデーモン討伐日和になるでしょう、ってなぁ！」
　背中の羽で彼は飛び上がると、矢を放ってまずは牽制。
　詠唱を妨害されたデーモンは矢を回避するために魔法発動を中断せざるを得ない。
「狙い通りや！　これでどうや！」
　すぐさま背負っていた槍を構えると、太陽を背にして急降下する浅沼！
　デーモンは逆光で浅沼の姿を上手く視認できない。
　その隙を突かれ、彼は槍でデーモンの心臓を貫通させた！
　貫かれたデーモンはそのまま墜落、まずは１体撃破だ。
　だがまだ気を抜けない。奥に色合いの違うデーモンが２体控えている。
　あれが指揮官のハイデーモンなのだろう。
　まだ接近してくる素振りを見せてはいないが、あいつがゾンビ作成に長けた個体なのだという。
「この調子で空はいくで！」
　浅沼はにじり寄ってくるデーモン２体と続けざまに対峙。
　天満たちの射撃号令と連携し、激しい攻防が繰り広げられる。

　一方、地上戦は困難を極めていた。
　一般兵が既に運ばれており、良くない意味で慌ただしい状況だ。
「治療に必要な綺麗な水や布、薬草、糸と針に刃物、担架、何から何まで用意していただいてありがとうございます。エレンさん」
　日月透は治療行為に必要な器具の調達をしてくれた巫女（シヴィラ）のエレンに感謝の言葉を述べた。
「シヴィラとして当然のことをしたまでです」
　尊大な態度でエレンは言ってのける。
「明らかに骨が折れてる人は青、血が止まらない人は赤、意識が無い人は白の布を。申し訳ありませんが、人手不足なのでエレンさんにもお手伝い願えますか？」
「兵の皆さんが命懸けで戦っているのです。私も喜んでお手伝いしましょう」
　エレンも臨時の助手として、日月の補佐に入る。
　そこへ望月が早々に負傷し、担架で塔の中へ運ばれてきたのだ。
　足に矢が刺さって見るからに痛々しい。
「……神無さん、もっと自分を大事にして下さい」
　日月は負傷した望月に思わず説教臭く言葉を投げかけてしまう。
「前衛は今誰が？」
「市橋が踏ん張りながら、逆巻が弓矢で応戦してくれてる。でも早く戻らないとヤバイです、つーか思ったよりゾンビがキモいどうしよう」
「……ならなんで怪我するような真似を」
　呆れる日月。バツが悪そうに目を泳がせる望月。
「説教なら元の世界に戻ったときに聞きます。だから怪我直してくださいお願いします日月先生」
「それくらい口応えできるなら、安心ですね」
　日月は「絶対に神無さんを助ける」と念じながら矢を丁寧に引き抜き、止血を行った。
　こうすることで彼のろっこん『ラファエルの手』が発動する。
　代償として彼のエネルギーは消費されるが、普段から何かと縁のある望月を助けたいという気持ちは本物だ。
「これでよし」
　最後はやっぱり説教の意味を込めて、かなりキツめに太ももの包帯を巻き付ける。
「続きは元の世界でお話しします。ですから……」
　日月が言葉を紡ごうとすると、望月はすくっと立ち上がり再び剣を取った。
「安心してください、日月先生」
　彼女は振り向かずに背中だけで語る。
「俺は、先生の期待を裏切りませんから」
　くたばって、たまるか。
　望月は塔を勢いよく飛び出した。
「だから無茶しないでくださいね？」
　日月はやれやれと溜息を１つ。
　だが、その顔は優しい笑みを浮かべていた。