トライアド・ディフェンダーズ｜リアクション

トライアド・ディフェンダーズ

【サクラの塔・５】

　一方、本隊は最悪の状況を迎えていた。
　敵は第二波の迂回作戦が失敗したと踏み、第二・第三波を合体させて正面突破を図りだしたのだ。
　囮部隊は消耗が激しい上に、２度目は通用しないだろう。
　前後に布陣する大群を前に、防衛部隊は嫌が応にも戦慄が走る。
「んー、２つの部隊の距離は500ｍ前後だって？」
　塔からの敵勢情報に眉をひそめる壬生。
「そろそろ投石器を準備しちゃって。狙うは巨人。残弾限られてるから、しっかり狙ってね」
　壬生の指示に兵士たちも緊張の面持ちだ。
「第二波のオークどもだぜ！」
　ザ・ストレイトは囮組３人を追い掛けてくる第二波の一部を確認。
　すぐに八神は火薬が掻き集められた廃屋へ入るように囮組へ指示。
　３人に釣られて廃屋に群がるオークたちを置き去りに、レインを皮切りに窓から脱出！
　その腕には大量の火炎瓶！
　すぐさま火炎瓶に着火し、廃屋に３人は投げ込んで離脱。
　黒色火薬は着火までに時間が掛かるのだが、流石にオークたちが離れるまでの時間を与えることはなかった。
　あっという間に、小屋に入らなかった重騎兵以外のオークは赤黒い爆炎に巻き込まれて粉々に吹き飛んでいった！
　哀れオーク強襲部隊、一網打尽、被害甚大！
　だがこの爆発は味方にも被害が及び、兵士や囮役３人とも傷だらけだ。
「皆さん、これを舐めて下さい……」
　折口がろっこん『奈美雫飴』で作成した負傷が治る飴を配り、３人回復を図る。
　一般兵はやむなく塔まで後退、待機しているゼシカ・ホーエンハイムの治療を受けることに。
　戦力の彼岸を見た結果である。
「重装備は倒す必要はない。馬上から落とせば事足りる」
　八神の分析は正しく、重い鎧は敵の枷でもあるのだ。
「巨人に集中するんだ。いくぞ！」
　八神は爆破で負傷したオーク兵に火炎瓶をぶつけながら、第二防柵付近まで下がり敵を引き付け始めた。

　塔内は前線の活躍により、予想されていた状況より楽観的な雰囲気だった。
　運び込まれた兵士たちも、ゼシカのろっこん『マリアの接吻』で事なきを得た。

（殿方の素肌に直接唇を触れねばならないのは気恥ずかしいですが、有事に際してそんな事は言ってられません）
　まかりなりにも彼女は聖職者。
　肌と肌との接触は抵抗があるのだろう。
「本音を言うとオークの方々も差別せず救助したいのですが……」
「優しいのですね」
　巫女ミヤコは治療を終えたゼシカの傍らにやってきた。
「聞かれてしまいましたか」
　ゼシカははにかむ。
「私はただ、救いたいだけなのです」
　ミヤコはそれをただ、黙って聞いていた。
　しばしの沈黙。
　それをゼシカは良しとはせず、思い付いた話題を振ってみることにした。
「ところで巫女に好きな殿方は？」
「へ？」
　これには周囲の兵士ともどもミヤコは硬直してしまう。
　ゼシカは取り繕うように苦笑いを浮かべた。
「いえ……こういう時に何を話せばよいかわからなくて。少しでも気が紛れればとガールズトークなるものに挑戦してみたのですが、不謹慎でしたでしょうか？　修道院暮らしが長いせいかしら、教会にお手伝いにくる子にもよく言われますの、シスターはズレてるって」
「う、ううん。ズレてるというよりも、もっとシリアスな話題が来るかと思ったから、拍子抜けしただけ」
　くすっとミヤコが笑えば、ゼシカもそれに合わせて顔を綻ばせた。
「巫女は純潔を守るため、恋愛は禁止なの。この塔を守るため、私情は挟めないわ」
　そう言うミヤコの手が、微かに震えている。
　ゼシカはそっとその手を取る。
「巫女は搭の象徴、即ち希望の象徴。ミヤコさん、貴女の存在こそが皆の心の拠り所なのです」
　ゼシカは急に塔に飾られた軍旗を剥ぎ取ると、槍に括りつけた。
「私はミヤコさんと同様に戦えぬ身。ならばせめて！」
　ゼシカは塔の屋上まで登ると、力の限り軍旗をはためかせた。
　追い掛けてきたミヤコも、ゼシカと一緒に旗を振った。
「彼らの無事を祈りましょう、ゼシカさん」
「ええ、主に祈りが通じるよう、我々の出来ることを行いましょう」
　乙女２人の願いが戦場に届いたのか、前線は大きく動き出していた。