レディ・ロゼッタの運命考察｜リアクション

レディ・ロゼッタの運命考察

『あぁ？　聞いてから出て行けばいいもんを、窓から飛び出して行っちまうんだもんな。行方不明のうち三人は犯罪者だ。ただ証拠がつかめない犯罪が多いらしい。これは奴らがもれいびならば説明がつく』
と、ジニー・劉は電話口の向こうで言った。悪事を働くとき、『ひとの目』があるとき、ろっこんが発動しにくいことはわかっている。が、裏をかく方法がないわけではない。
『聞き込みで、奇行の目立つ引きこもりが失踪したと聞いたわ。怪しい趣味とか自分は特別だとか言い出してたんだそうよ』
『おそらくそいつも……だな。名前は聞いたか？』
『聞いたわ。佐島、だったかな？』
『ビンゴだぜ、夏帆。そいつぁ警察から手に入れた失踪リストの中にある名だ』
島野夏帆は満足げににやりと笑うと、上品に頭の上に乗せていた帽子をむしりとった。黒髪のウィッグが乱れるのもおかまいなしで、驚くべき速度で次の目的地に駆け出していく。

『お二人は足で情報収集ですか、お気をつけて。僕は過去の新聞やネット周りを洗ってみます』
ジニーと夏帆による捜査班と連絡を取るのは、刻人・F・ミセリア。本日彼が演じるのは、「失踪事件の噂を聞いて、いても立ってもいられなくなった正義感あふれるまじめな大学生」だ。何の得にもならないのに、ボランティアで捜査の手伝いを行うという筋書きだ。プラン通りに動いている自分を客観的に見るのがおもしろくて、刻人はくすりとひとり笑う。

「犯罪者の失踪はあまり表には出てこないね。スポーツ新聞のたずね人欄の方がいいかな？」
ここ二、三ヶ月前の新聞記事を洗ってみる。失踪した人間の名前にはたどり着けそうになかった。やっぱりだめか、とつぶやいて刻人はノートパソコンを開く。多くの島民が利用する『ねこったー』を参照するためだ。
「検索語は……失踪、警察、行方不明なんかでいいかな」
『うちがバイトしてた店から泥棒してた奴行方不明らしい。ざまあ』
『警察来た！　犯罪者が逃げたとか消えたとか……ナニそれ怪奇現象？』
気になるつぶやきをたどっていくと、警察やニュースが明らかにしない事実が見えてくる。
「セブンはもれいびに執着しているみたいだからね。ろっこんの力を使って悪目立ちした奴、あるいは本当に悪いことに使った奴を誘拐したのかな」
セブンの拉致から逃れたと主張する男の名は『但野』であると、調べものの最中に夏帆から届いたメールで判明した。ジニーが警察をゆすって手に入れた情報だそうだが、情報のソースについては刻人の知ったことではない。検索すると、過去にも何度か窃盗で逮捕されている過去があった。ただし、ここ最近捕まった記録はない。
「ろっこんを使って盗みを働くようになったんなら、足がつく可能性は減るからね。筋は通る」
ノートパソコンを閉じ、かばんにしまうと刻人は立ち上がった。赤の他人には、勉強を終えて立ち去る大学生にしか見えないはずだ。
「ここから先は、足で探そうか」
シーサイドタウンのジニー、旧市街の夏帆とは別行動をとる刻人が向かったのは救急病院だった。2つめに当たった病院に、灰色のマイクロバスが見える。
（当たりかな）
そう確信して中に入る。見舞い客を装えば怪しむ者はいなかった。エレベータで上階の病棟に向かうが、さすがに問題の男がいる病室まではわからない。刻人は手すりを伝って歩く、入院患者の年配女性に目をつけた。女性がつかむ手すりに触れ、『有益なるクロノメーター』を発動させる。とたん手すりの接合部はもろくなり、がたりと異常な音を立ててはずれ落ちた。女性はバランスを崩し、ばたりと倒れる。
「ああ！　大丈夫ですか!?」
痛みにうめく女性を刻人はすばやく助け起こした。弱者を放っておくことのできない、善意の若者。誰の目にも刻人はそう映ったことだろう。礼を言う女性を病室まで送るといって刻人はきかなかった。腕を支え、女性のペースでゆっくりと歩く。
「今日はいつもの病棟と雰囲気が違う気がしたんですが……ひょっとして何かありましたか？」
「今日どころか、数日前からよ。何でも、ニュースで放送された犯人が収容されたとかでね。個室だったし、すごく錯乱していたそうだからよくは私も知らないの」
「ちょっと怖いですね。その人はどこに？」
「体はなんともないらしくて、もう退院したって聞いたわね」
どのコミュニティにも情報通がいるものだ。噂に敏感な入院患者からの情報で、但野は一度自宅に戻ったことがわかった。
「証拠不十分、ということかな。劉さんに知らせておこうか」

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