レディ・ロゼッタの運命考察｜リアクション

レディ・ロゼッタの運命考察

「フツウの高校生が長居していい場所じゃねえからな。……さてと」
ふうっ、と白い煙を吐く。静かではあるが、この部屋にいるのはジニー・劉一人ではない。
「夏帆。こっからはてめえにひとつ頼むわ」
「まっかせてー！　夏帆ちゃんの忍びパワーで情報ゲットよ！」
一体どこに潜んでいたのか、まるで壁の中から抜け出たように、寝子高指定の制服姿の島野夏帆が現れた。これはもう忍者マニアの孫では済まされない。現代の忍者が、そこにいた。

「ところでてめえ……学校はどうしたんだよ？」
「学校？　もちろん仮病よ！　夏帆ちゃんには勉強より大切なことがある！」
キリッ、とした顔で堂々と答える夏帆。ジニーは呆れ声とともに、また一筋煙を吐き出した。
「どうでもいいがその格好で行くなよ？」
「わーかってますって！　夏帆ちゃん七変化のいち、ごらんあれ！」
言うや夏帆は黒髪ストレートのかつらと、お嬢様風の帽子を装着し、制服のシャツに手をかけたかと思うと、袖から腕を勢いよく抜く。
「うわっ、ばっ！　ここで脱ぐなっつーの……えっ？」
下にはさらりとした生地、淡い色合いのしゃれたワンピースが着込まれていた。
「あら……いやだわ。帽子は最後にかぶるべきでしたよね……？」
黒髪になった夏帆は、いつもとまったく違う調子で話し、にこりと微笑んで帽子をかぶりなおした。ジニーはその変化にただ驚く。
「ふふふ。声に吐息を多く含ませ、ゆったりとした敬語で話す。これだけでずいぶん印象が違って見えるものなのよ！」
「はぁ……だから女はわけわかんねーっての。早く言って来い」
「合点承知よ！　入手した情報は情報班に集積ね」
言うや夏帆はお嬢様姿のまま、ひらりと窓を伝って消えた。淡色のワンピースのすそが恥ずかしげもなくめくれ上がったのをジニーは見なかったことにした。

「さてと、まずは聞き込みからね」
　変装した夏帆は、シーサイドタウンを離れ旧市街へと足を向けた。寝子島のことなら古い伝承からもっとも新しい噂話まで、島に住んで長い人々が多いこの地域が何といっても強い。深呼吸をして気持ちを切り替える。今から夏帆は情報班の一員ではなく、兄を探す気弱な少女になるのだ。
「あの……すみません……」
夏帆は人のよさそうな恰幅のよい中年女性を選んで声をかけた。
（人に共感する能力が高く、噂好き。こういった人から思わぬ情報が得られるのよ）
「お兄ちゃんを、あっ、兄を探しているんです。突然いなくなっちゃって……もしかしたら、最近多いとか言う失踪事件に巻き込まれて！　警察も取り合ってくれなくて……！」
一気にまくしたてると、息苦しくなってきた。あえて呼吸をしない。顔が赤らむ。ここぞとばかりに目に力を入れると、涙が浮かぶ。顔を真っ赤にして涙を浮かべる可憐な少女が出来上がった。
「おやまあ、何てこと！」
中年女性の同情を得たと確信した夏帆は続ける。
「どんな些細なことでもいいので、いなくなった人が最近いるとか、噂とか……知ってることがあったら、教えてもらえませんか？　お願いします！」
「そうねえ……あたしもよくは知らないんだけどね」
と、女性の切り出した話はこうだった。近所に住む若者が、ちょうど同じころに行方不明になっているらしい。「いい歳もして働かず、家族も手を焼いているみたいだったね。なにやら怪しい趣味に手を染めて、『俺は特別なんだ』とか叫び出したり……勝手によその庭に入り込んだり、おかしな行動が目立って来てはいたんだけど」
（奇行？　その程度の変人はどこにだっているわ。怪しい趣味の方が問題になるはずね）
聞き込みを続けた夏帆が得た確信に近い推測は、ろっこんを犯罪行為に利用しようとしたもれいびたちの存在。そして彼らが拉致の対象になっているというものだった。『セブンから逃げてきた』と証言した男にも犯罪歴があったはずだ。それ以外の失踪者は安否が確認されていない。
「うーん……何かスッキリしないわね。まあとりあえず、この情報をジニーさんに送っとこうかしら」