ハッピーバースデー！　７月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　７月☆

●Jul.26　損ばかりではない誕生日

　万条幸次は明日、帰省する予定なので荷物をまとめている。
　夏休みになるから約束でもしない限り友達と会うこともないので、自分の誕生日は損をしていると思う。
　そんなことを思いながらスーツケースに服を詰めていると、急にチャイムが鳴った。
　母からの荷物が来るわけでもないし、こんな時に誰だろう。
「はいはーい」
　荷造りを中断して玄関を開けると、家を訪ねに来た愛猫萌々子がいた。
「こんにちは、愛猫……萌々子です」
「えっ、愛猫さん……？」
　どうして？　と不思議がっていると、クラスメイトに住所を教えてもらったとのこと。
「先輩が今日、誕生日と聞いて……」

　6月のプール開きの時に告白して以来、学校で会っても萌々子に避けられていたのでちょっと気まずい。
（正確には告白っていうか、好きだっていう思いに気づいたって口を滑らせたと言う方が正しいというか……）
どうしたものかと幸次は玄関前で立ち尽くしていると、萌々子が何かを差し出した。
　今日が幸次の誕生日だと言っていたので、プレゼントだろう。
「これは首輪……？」
「お誕生日のプレゼント、ペット用首輪風のチョーカーです。……あの、変な意味じゃないんです！　先輩ってろっこんで猫に変身してますけど、野良猫と間違われて大変だったって聞いたので」
　首輪を見てびっくりしたが、ああ、そういうこと……理由を聞いて幸次は納得した。
「あとは私自身も、普通の猫と先輩を間違えないようになりますから」
　これが目印ですので、と更に説明する。
　良く見ると、首輪は普段使いでもまあ何とかなるデザインなので今、この場で着けてみることに。
「これは人間用なので、ワンタッチで装着出来ますよ」
　失礼します、と幸次から首輪を借りた萌々子は、こうやって……と着け方を教える。
「どうかな……？」
「とっても似合っています。それと……あの……」
　足が緊張で緊張でガクガクするが、もう逃げるのは無し。
　おもいきって幸次の家まで来た。後は、思いを伝えるのみ。
「プール開きの時に先輩の気持ちを聞かせてもらって、考えてようやく決めました」
　深呼吸して、心を落ち着かせてから続きを。
「先輩のことが好きか……と聞かれるとわからなくなって即答はできませんが、好意を向けられたことはとても嬉しかったです、嫌いだとは思っていません。だから……よろしくお願いします！　お返事、遅くなってごめんなさい！」
「それって……付き合うのOKってこと！？」
　コクンと頷く萌々子。
「えっいいの！？　あああありがとうございます！」
　嬉しいやら何していいやらで、萌々子が家に訪ねに来たこと以上に幸次は混乱している。
　こういう時はロマンチックなセリフの一言も、と思うが、いざとなると出てこない。
　ええい、ままよ！　と、幸次は咄嗟に萌々子を抱き寄せた。
「ありがとう、すっごく嬉しい……」
　バクバクの心臓を抑え、ようやくその言葉を出せた。
「……昔、お母様にこうしてもらっていたのを思い出します」
　急に抱きしめられことに驚いたが、子供の頃の懐かしい記憶を思い出したことで落ち着いた。
　とりあえず付き合う、なことで良かったのか。
　ずっと悩んでいたが、幸次が気にしていないようなので良かった。

　思わず抱き寄せたことで硬直状態だった幸次だったが、そのまま、しばらくそうしているうちに治まってきたようだ。
「……家、入る？」
　何も考えられてないが、今は、萌々子とふたりっきりになりたかった。
「いいんですか？　では、お邪魔します」
　話したいことがたくさんあるので、お言葉に甘え、幸次の家に上がらせてもらうことにした。