ハッピーバースデー！　７月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　７月☆

●Jul.25　特別な夜

　森篠奏子、9歳……という時間まで残りわずか。
「そろそろ時間だ」
　時計を見て、MewTubeチャンネル『お姉チャンネル』な生配信の時間をカウントする。
「3･2･1……時間だー！！」
　時計の針が午前0時を指し、7月25日になると同時に、『お姉チャンネル』特別編「kanakanaハッピーバースデースペシャル！！」の配信を始めた。
「やっほー、kana kanaだよー！　『お姉チャンネル』がはーじまるよー！　今夜は特別生配信だよー！！」
　いつもの背景はベースは原色、それもビビットな色調のCG合成だが今夜の配信は少し豪華な背景だ。
　アニメーションも展開されているが、これもいつもと少し違う。
　この日のために、見栄えの良いフリー素材を用意したのだ。フリーBGMは楽しい雰囲気のものを選んだ。
　舞台準備はバッチリだが、一瞬、リアル奏子の部屋の壁紙が映り込んでしまったが気にしない。
「みんなー、観に来てくれてありがとー！」
　いつも以上のハイテンションで両手をひらひらと振り、画面の向こうにいる視聴者に挨拶。
　今夜の奏子は百均ショップで買った『お誕生日おめでとう』と書かれたのたすきを肩にかけ、ピンクのハート型眼鏡をかけている。
　元気良く……とはいえ、母と姉が眠っているので、あまり大きな声ではしゃげない。

　いつもは姉の森篠琳子のことばかり喋っているが、今の生配信中の話の中心は奏子。
　自分のこと中心に話しまくっているが、大好きな姉のことをもっともっと知ってもらうという目的も忘れていない。
「kana kana、10歳になりましたー！　いぇーい！！」
　そんなノリで約2時間ほど色々と話しまくっていたが、例によってチャンネル視聴者は安定の一桁台。
「5人か……」
　一時期は二桁越え、一時は20に迫る勢いを記録したことが。
　特別な日にさすがにこれは……と、ちょっと落ち込んでしまった。
　視聴者数はともかく、例によって「お姉ちゃんって実在の人物なの？」といつもの視聴者に突っ込まれたので「ちーがーうー！！」と言い返すのはもはや定番。
　琳子がこのチャンネルを知ったら絶対に速攻でチャンネルごと削除させること必定なので、逆に言うとたった5人しか見ないということはバレず済むともいえる。
　奏子は夏休みだが、母と姉は明日も仕事だ。あまり騒ぎすぎて起こしてしまったらまずい。
　視聴者数伸びそうもないし、眠くなってきたらこのへんで……と生配信を終了することにした。
「『お姉チャンネル』特別編、見てくれてありがとー！　まったねー！！」
　ラジオ体操に間に合うように起きればいいか、と目覚ましをセットし、奏子は仮眠をとる。

　朝。
「起きなさい！　いつまで寝てるの！！」
　うるさいなあ……とだるそうに体を起こした奏子が目覚まし時計を手にし、時間を見ると……。
「え、し、7時っ！？　もうこんな時間！？」
　うっかり夜更かししてしまったことで、ラジオ体操をすっぽかしてしまった。
「何度も目覚まし鳴ってたのに何で気づかないの！　夏休みだからって夜更かしをしない！！」
　琳子と母に叱られたことで、昨晩のテンションが一気にダダ下がり。
「明日は、ちゃんとラジオ体操に行くこと！　いいわね！」
　そう言って、琳子は家を出て出勤した。
　それに続き、出かける時はちゃんと戸締りするようにと念を押した母が家を出た。
「夏休みだからってたるんでいるわね。しょうがない子……」
　寝坊してラジオ体操をすっぽかしてしまった妹を叱ってから、母と一緒に出勤した琳子は職場に向かう。