トンビがくるりと目を抜いた｜リアクション

トンビがくるりと目を抜いた

　◆　愛しき日常の流れに

　トンビたちが去ったあと。

「な……いま……」
　何事が起きたのか理解できず、母親は地面に尻餅をついたまま呟いた。
　八神修が手を差し出して母親が起きあがるのを手伝い、自然に話しかける。
「トンビがたこ焼きを狙うんですよ。俺が転んでたこ焼きばらまいた所為で寄ってきてしまったようで、申し訳ないです」
「え、ああ……」
「あまりたくさん集まってきたので、周りのみんなも慌ててしまったようですね」
　それだけでは説明できないことも多々あったが、理解不能の事態にあえば、なんらかの理由付けをして自分を納得させたくなるものだ。母親は受け容れられるその理由を呑み込むことによって、自分の混乱を静めることにしたらしい。
「そ、そうだったのね、トンビ……確かにこの辺には、多いって……」
「看板もでていますしね。まだトンビも落ち着いていないかも知れませんから、お子さんを連れてしばらくここから離れていた方が良いですよ」
　修の勧めに母親ははっとしたように娘の名を呼んだ。

「おかあさーん」
　女の子が走り寄ってくる。
「あの子にこれをやるのじゃ」
　薫子が投げずにとっておいた一皿を母親に差し出した。
「ありがとうございます」
　母親は礼を言うと、まだどこかぼんやりした様子ではあったけれど、女の子を連れて浜辺から離れていった。

「さてと。みんな無事かしら？」
　尾鎌蛇那伊が周囲を見回した。
「無事じゃない人がここにいるぞ」
　霧生渚砂は肩を貸しながら連れてきた山田勘三郎を示した。
　海水でびしょぬれな上にトンビから受けた傷多数、おまけに空腹でへろへろだ。
「まあ大変ね」
　これは治療が必要だと、蛇那伊は服を脱いで海水パンツ１枚になった。
　勘三郎の濡れた服も取り去ると、
「ふんっ」
　蛇那伊はぴったりと肌を寄せ、己の汗をすり込みながらの快感ヒーリングマッサージ。
　それは対象の精神と肉体を大きく回復させるもの……ではあったのだけれど。
「うっぎゃああぁぁぁ……！」
　勘三郎は悲鳴を挙げ、残る全ての力でばたばたと暴れる。
「怪我人は大人しくしてなさいな」
　力無い腹ぺこの抵抗を易々と封じ込め、蛇那伊はじっくりとマッサージを施した。

「荷物だいじょうぶ？」
　桜庭円に覗き込まれて、後木真央は平気平気と笑ってみせた。
「それより、あの子が無事で良かったのだ。……円ちゃんもあれを見たのだ？」
「うん。でも見てない人もいるみたいだね……」
　もれいびと関係あるのではないかと思うのだが、調べる方法が考えつかない。
「あの矢木沢って人も何も覚えてなかったみたいだし、一体何だったんだろうな」
　風雲児轟は紫の様子を思い出してみる。隠し事をしているようにはみえなかったが……。

　分からないことだらけだけれど、１つだけ言い切れることがある。
　フェイスマスクとペイント銃を元のように鞄にしまいこみ、日暮ねむるはトンビたちの姿のない空を見上げる。
「あの子の目が無事で良かった」

　何が起きるかを知り、自分なりの最善を尽くした人の手によって、１人の少女が悲劇から救われたことは確かなのだった――。

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あとがき

担当マスター：ねこの珠水
ファンレターはマスターページから！

　家のこと、仕事のこと、体のことでの不調が重なってしまい、シナリオの完成が非常に遅れてしまったことを、深くお詫び致します。
　参加して下さった皆様、並びに、自分の手で完成させたいからと無理を言って待って頂いた運営様、大変申し訳ありませんでした。

　しばらく身辺が落ち着くまで、お休みをいただきます。
　いつかまた、寝子島に戻って来られる日を夢見て。
　ありがとうございました。

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