闇ありて棲み処は澱む＜１＞｜リアクション

闇ありて棲み処は澱む＜１＞

●物置

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　物置は二階にあった。ちょうど玄関と管理人室の真上だ。
　管理人室を調べ終えた龍目豪が物置に顔を出したとき、そこでは鏨紫とマリエッタ・ラシュリエが残された物品たちと格闘していた。
「どうせ建物ごと壊すと思って全部おいていったのね」
　木天蓼大学の大学院で建築学を学ぶマリエッタは、呆れ気味にスチール棚の段ボール箱をひっくり返す。
　物置と称すこの部屋は数列に渡るスチール棚が置かれ、マンション管理に使っていたと思しきスコップやはしご、工具箱をはじめ、ベニヤ板やらコスプレ道具やら高枝切りバサミまで、整理整頓とは程遠い状態で詰め込まれていた。
「縄梯子があったわ。こっちの箱は災害グッズね。保存水はまだ賞味期限内」
　壊す建物からわざわざ不要物を持ち出すメリットは少ない。運び出すにも捨てるにも、手間も金もかかる。建物ごとまとめて廃材にしてもらった方がありがたいというものだ。
　マリエッタの目当ては携帯可能な工具類だ。特にドリル。鍵のかかったドアの破壊に役に立つかと探していたところ、手動ドリルを発見。電動よりはパワー不足は否めないが、電源の確保に困らないのがいい。
「あっ、こっちのハンマーもいい武器になりそう」
　空中で振り抜き、重さがちょうどいいのを確かめると、マリエッタはそれも腰のベルトに挟む。
「幽霊には効かそうになさそうな気もするけど、なにか壊すのには便利よね」

　怪力が自慢の紫は、工具箱のから鉄梃を摘まみ上げ、具合を確かめるように手の平に打ち付けている。
　そいつで扉をこじ開けようということのようだ。
「ただ、お邪魔させてもらっている以上はあまり派手に壊したくないな」
「あー、それはもう遅いかな」
　すでに修が１階から順にノブを＜分解＞している。
　豪がそう伝えると、紫はそうかと口の端を上げる。
「なら遠慮はいらないか」
　豪は自分はろっこんで力を出せるから、と武器になりそうなものはマリエッタに持たせ、自分はドライバーやペンチ、釘などが入った工具箱を持った。
「それを言うなら僕も戦闘は素手で充分だ」
　鉄梃を腰帯に挟んだ紫は、縄梯子と高枝切りバサミとスコップを片腕で軽々と担ぎあげる。
　こういったものは使い慣れた仕事道具のようなものだ。
　こう見えて紫は、霊界において樵に大工に鍛冶と手広く手掛ける一家の棟梁なのである。

　そのとき、ふいに絹を裂くような悲鳴が聞こえた。