闇ありて棲み処は澱む＜１＞｜リアクション

闇ありて棲み処は澱む＜１＞

●中庭

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　１階玄関から建物に入って正面に、中庭に抜けるドアがある。
　青木学は建物の全容を撮影するべく中庭から舐め上げるように内側から見る建物を撮影していた。
　中庭に面する窓が大きいお陰で廊下の様子がよく見え、誰がどこにいるかが一目瞭然で分かる。

「吹き抜けになってるから空が見えるね」
　学を追うように、白真白が背の低い雑草の絨毯を踏んで中庭に入ってくる。
「植物、枯れてないね。廃墟になってから１０年は経ってるっていうし、マンションの真ん中の中庭って日光とか当たらなさそうだから、荒れ果ててるかと思った」
　植物は意外に逞しいのだと知った。僅かな日光を糧に草花蔓延る中庭は、灰色の廃墟の中でも青々としていて、数少ない息をつける場所に思える。
「石碑とか残ってないか？」
　あるいは何か埋められたあととか……と、学はカメラを地面の方へ向けると、真白も楽しそうにしゃがみ込んで雑草をかき分けはじめる。
「地下への扉とかあったりしないかなぁ。こう持ち上げたら開く系の扉みたいなの」
　そうして見つけたのは、石碑でも扉でもなく、横倒しになった木造りの社だった。
「なんだろう。何か祀ってるのかな」
　近づこうとすると、ぐしょり、真白の靴が泥を踏んで濡れた。
「やだ、なんか地面から水が沁み出してる」
「本当だ。草が生えてて分かりにくいけど、かなりぬかるんでる。ここ、元は湿地か何かだったのかな」
　植物が枯れていないのは水気が多いせいでもあったのだろう。
　柔らかく濡れた雑草が密集している箇所を大回りして、出来るだけ乾いたところをつま先立ちで社に近づく。
　社の背の高さは１メートル弱。
　何の神を祀っていたのかはわからないが、祀るべき理由はあったのだろう。
　失礼しますと手を合わせ、社の戸を開ける。
　御神体のようなものがあれば何かわかるかと思ったからだ。
　しかし予想に反して中は空だった。
「……何かあった感はあるね」
　真白が言うように、社の床部分の埃の積もり方が、中央部分だけ細長い形で薄くなっている。
「誰かが持ち去ったのかな」
　学はあるがままをカメラに収めると、立ち上がって中心から建物を見渡す。
　中庭の隅に掃除用と思われる竹ぼうきが立てかけてあった。
　学は一応それを持って行くことにした。

●１F黒いドア

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　中庭から戻ってきた真白は、エレベーター脇の細い通路の奥に黒いドアがあるのを見つけた。
「……見るからに怪しいね、これ」
　ドアに近づく。
　ちょうど１０１号室から順に＜分解＞でドアノブを壊してきた八神修が１０４号室のほうから来た。手掛かりがどの部屋にあるか不明なので全室開けることにしたのだが、１０４号室のようにすでに開いている部屋はスルーだ。
「これも開く？」
　真白が指す黒いドアのノブに触れ、修は慎重に＜分解＞を仕掛けてみる。
　ごとり。ノブが外れる。
　が、押しても引いてもドアは開かない。
「……物理的には壊したはずだけど」
　そのとき、餅々きなこがふわりと真白の頭上に現れた。
「みためどおりじゃないんだとおもう」
「どういうこと、きなこちゃん」
「なにか、れいてきなちからで、とじられてるんだとおもう」
「そうか。ならここは後回しだ」と修が言った。
「未調査の部屋を先に調べよう」