寝子島の風にのって、ふわふわわ～｜リアクション

寝子島の風にのって、ふわふわわ～

　盛夏の太陽に照らし出された紺碧の海に、真っ白な波飛沫を立てて駆け抜けるは黄色いバナナボート。海上を勢いよく疾走するボートの上には、長い栗色の髪を靡かせて顔中で笑う酒浸朱蘭。
　ばっしゃあん！　ボートが波に跳ねて空中に躍り上がる。興奮と、うっかりさっきろっこんを使って口にしてしまったラムネのせいでふわふわめいっぱい楽しくなった気分のまま、朱蘭はふんわり赤く染まった頬で叫ぶ。

「十周年めでたいぃいやっほぉおおおぉうー！」

「めでたーいっ！」
　小柄な身体にたわわな胸を揺らし、白真白がキャッキャと唱和する。
「ほら、紅ちゃんも！」

「……あたしはいいよ」
　海の家で買ったいちごとブルーハワイのかき氷を片手ずつに、紅美は難しい顔をするけれど、
「こういうときは笑ったもの勝ち！」
　夏にも海にも大はしゃぎな真白にぴかぴかの太陽みたいな笑顔で覗き込まれ、
「もーいっかーい！」
　海から聞こえる朱蘭の真夏の空のような明るい声にも圧され、紅美は一瞬言葉に詰まる。
「一回だけ、言ってみよ？　ね？」
「い、……一回だけなら」
　友達の青空まで突き抜けるくらいの明るさにつられ、紅美は思わず笑った。
「めっでたーい！」
「……めでたい！」

　真夏の青空に響き渡る楽し気な声に、音海なぎさは砂浜にお城を作っていた手をふと止めた。眼鏡越しのマリンブルーの瞳を眩し気に細め、笑いながら砂浜を駆け抜けて行く少女たちを見遣る。

(みんな、楽しそうだね)
　潮風に触れられて頬をくすぐるオレンジブラウンの髪を片手で耳に掛け、ついでに耳元を飾る花にそっと触れる。ピカピカの太陽を仰ぎ、楽し気な人々の声を聞きながら作り上げた立派な砂のお城に旗を差せば、達成感に胸が弾んだ。

「ね、使う？」
　大人しく儚げな風情のなぎさに、楡宮遠海は声を掛ける。
「それとも塗ってくれる？」
　友達に声を掛けるようにからかってしまったのは、真夏の海の解放感のせいだろうか。それとも、
「やっほーう！」
「おっめでとー！」
　海と砂浜で賑やかに楽し気に笑い声を響かせる女の子たちのはしゃぎっぷりにあてられたからだろうか。
　トロピカルな水着を纏って夏の笑みを浮かべる遠海に、なぎさはふわりと頬を赤くする。少年のような反応をする優し気な少女にしか見えないなぎさにつられて、遠海もちょっと頬を赤くする。少女にしか見えない少年と、夏にあてられた少女がお互いに照れたように笑いあうその脇を、
「此方か？」
　目隠しをして木刀を手にした琴触昴が悠然と過ぎる。
「ちゃうちゃう、こっちやスバルん！」
　木刀を支えにその場で十回ぐるぐる回転したくせに全くぶれない昴の足取りに内心舌を巻きつつ、鹿園斐美は足元から少し離して置いた西瓜を指し示す。目隠しをした昴には見えないと分かっていても、
「こっちやで！　ほれ、うちの声しとるとこ！」
「……此方か」
　賑やかな声で溢れる砂浜の上、斐美の声を確実に耳に捉え、昴は爪先に砂を掴む。眼を塞がれていても、目の前が暗闇でも、斐美の声の導きがあれば、
「そこや、スバルん！」
「……ッ！」
　目標物目掛けて迷いなく木刀を振り下ろすことが出来る。
「よっしゃ、お見事！」
　斐美の拍手と、木刀が西瓜を叩き割る確実な手応えはほぼ同時だった。

「よし、割れたか」

「割れた割れた、上出来やスバルん！」
　目隠しを外してみれば、傍らには早速割れたばかりの西瓜を手にした白いビキニ姿の斐美の姿があった。
「スバルん、あーんやで、あーん」
「……ん」
　斐美が口元に差し出してくれた西瓜の欠片を差し出されるままに一口齧り、実直な笑みを浮かべる昴の背後、
「いぃやっほぉおっめでとーっっ！！」
　まだまだ元気いっぱい、朱蘭が世界を言祝いでいる。