「わぁ？！　大きい猫さん……？」
「協力を、仰げないか話してみるか？」
　恵御納 夏朝と犬杜 一閃は、目の前に現れたぶち猫に目を丸くする。が、よく見れば、上に誰かが乗っていた。夏朝は、猫なパペット・ハルくんと共にちょっと驚いているようだったが、よく見れば寝子高で見かけたことがあるような……？
「この子は俺の家族、花遊だよぉ。一緒に『伝説の蝶』を探しているんだよ」
　万条 幸次は、猫からするり、と降りて２人に説明する。丁度『伝説の蝶』を探していた２人は、同じ目的の仲間がいることに嬉しさを覚えた。
「そっちは、どう？」
　と、３人に声をかける者が。夏朝の片割れである恵御納 夏夜だ。その隣には一閃の妹、犬杜 初の姿が。２人は夏朝と一閃と共に『伝説の蝶』を探していたのだった。

＊ ＊　＊

「俺もここに来た時ねぇ、花遊が通常サイズでびっくりしたけど……」
　幸次が、もふもふたっぷりな花遊の顎を（モフモフに埋もれそうになりつつ）撫でれば、それを見て夏夜は思いつく。
「僕たちも、動物さんたちに協力を仰いてみよう！」
「でもどうやって……？」
　初が不安げに問いかけた時、ころころと転がってきたものがあった。果物である。夏朝は一閃と共にミカンを見つけ出すと二人でどうにか皮をむいた。
「これで交渉できないかな……？　みずみずしくて美味しそうだよ」
　夏朝がミカンの匂いに瞳を細める。
「これを使って、交渉してみよう」
「僕も、力になってくれそうな動物を探してみるよぉ。行こう、花遊さん！」
　夏夜の言葉に全員が頷き、幸次は花遊にひらり、と飛び乗った。

　『伝説の蝶』に繋がるヒントと思わしきものをデジカメで撮影しながら行く夏夜。彼女はその最中淡い青の花が咲き誇る場所にでる。
「わぁ、綺麗……」
　共に行動していた初が思わず感嘆の息を漏らしていると、夏夜共々かりかりという音に気付く。

（これは……？）
　夏夜は、なにげなくデジカメを地面に向ける。そして倍率を上げると……うっすらと動物の足跡を見つけた。
「この先に、何かいるかも」
「このミカンで交渉できないかな？」
　そっと後をつけると、そこにはリスがいた。しっぽを揺らしたリスは、不思議そうに２人を見る。夏夜は、ミカンを初へ預けると、一歩リスへと歩み寄る。
「リス君、俺たちの話を聞いてほしい」
「協力してくれたら、これをあげるよ」
　初がちらり、とミカンを見せながら言うと、リスは「話を聞こう」というような仕草で向き直った。

　一方、その頃。
「あそこに小鳥がいるよ！」
　猫の花遊の上から、幸次が教える。
「ありがとう！　行ってみるよ」
「花遊と一緒だと、小鳥が逃げてしまうかもしれないし……。俺はちょっとあたりを見てくるよ」
　夏朝が礼を述べると、幸次は『伝説の蝶』の手がかりがないか探しに行った。一閃はミカンを抱え、夏朝と一緒に彼を見送ると小鳥へと近寄る。まじまじと小鳥を観察していた一閃は、その色合いや目の周りの白い輪を見て目を僅かに見開く。
「メジロ……？」

「メジロさん、ちょっと話を聞いてほしいんだ……！」
　夏朝が呼びかけると、メジロは直ぐに気づき、２人のちかくの枝まで降りてきてくれた。帽子とゴーグルが似合うメジロは一閃が持つミカンに目が釘付けだ。
「食べたいのか？」
　一閃の問いに、メジロが頷いた。
「僕たちは、『伝説の蝶』を探しているんだ」
「何か、ヒントとかないか？」
　夏朝と一閃がミカンを見せながら問いかけると、メジロはついてこい、という仕草を二人にする。２人は顔を見合わせ頷き合った。


「んー……ここは色とりどりの花がいっぱいだね」
　花遊のふわふわとした毛並みに触れながら、幸次が辺りを見渡す。色々な蝶も飛んでいるが、どれが『伝説の蝶』なのかはわからない。
「花遊はどれだとおもう？」
　幸次が問いかけるも、花遊はくあ～、とあくびを一つするだけ。
（ヒントはないかな？）
　と空を見上げた時、ひらり、と白い光のようなものを見た……気がした。
「あれ……？」
　追いかけようとした時、既にその姿は無く……。幸次は仕方なく地道に探し始めた。

「ここは？」
　夏夜が案内されたのは、青々とした草に囲まれた、少し開けた場所。帽子をかぶったリスはちょっと待つように言って木の根元へ入って行ってしまった。
「どうしたのかしら……」
　少々不安げに初がいうと、少し土を腹につけたリスが姿を現した。そして、その手に握られているのは２枚の地図。
「もしかして、このあたりの……？」
　リスはこくりと頷く。だが、その目はミカンに釘付けだった。苦笑しながらミカンを与えると、リスは嬉しそうにミカンの房を食べる。
「早速見てみましょ！」
　初に勧められ、夏夜が地図を開いていると、小鳥の声がする。よく見れば、メジロに案内されるように夏朝と一閃が現れた。
「何故、ここに……？」
　一閃も夏朝も少しきょとん、としてしまったが夏夜は僅かに微笑んで２人に手を上げ、初は思い切り手を振り「地図を見せてもらったよ！」と情報交換。そのまま、２つに分かれ情報を更に得られないか試みる。
「つまり、その蝶はこのあたりをいつも通るんだね」
　夏朝の問いに、メジロはこくこくと頷く。一閃がミカンの皮をむいてメジロへと与えると、メジロは嬉しそうにミカンの房をとった。
　脱線しがちなメジロの話を纏めると、その『伝説の蝶』は淡い光を放ちながらこの辺りを通っていくらしい。
「時間はまちまちなのかな？」
　夏朝が問いかけるも、メジロはミカンに夢中になって答えない。ただ、その食べっぷりを見ていると、ミカンを食べてみたくなる。
「いい匂い～。ん？　花遊は苦手かな？　もしかして……」
　急に草むらが揺れたかと思うと、ぶち猫・花遊に跨った幸次が姿を現した。彼もまたミカンの香りにつられたらしい。夏朝は、どうしようかと悩むも、ここでお腹がきゅぅ、と啼く。
「俺たちも、食べるか……」
「そうだね……」
　一閃の言葉に、夏朝は少し赤くしながら頷く。心なしか、ハルくんの動きがゆっくりかもしれない。
　リスは既に貰ったミカンを食べてしまい、満足そうな顔をしていた。そして夏夜と初に食べてくるように促す。
「私達も食べようよ！」
「……う、うん」
　初に促され、夏夜もまた彼女と一緒にミカンを食べることにした。
「これ、美味しいぃ～」
　既に一閃からミカンを１房貰い、幸次は幸せそうにミカンを食べている。だが、花遊さんは興味がないのか、くわぁ～、と１つあくびをした。

　地図をみて、メジロとリスの話を聞いて……。『伝説の蝶』の情報を纏める５人。

「どんな姿だろう……？」
　一閃がミカンの皮を剥きながら、思いをはせる。と、夏朝がミカンの１房を取り、メジロに渡しながら想像する。
「とっても綺麗なのかな……。ね、ハルくん？」
　パペットと顔を見合わせ、にこり、とほほ笑む夏朝の言葉に、夏夜も頷く。
「見てみたいな……。デジカメで写真が撮れるといいな……」
「撮れたら、ういにも写真くれる？」
「いい写真が撮れるといいねぇ。きっと素敵な蝶だよ」
　初が目をキラキラさせながら問えば、夏夜はこくり、と頷く。と、幸次もまた優しい笑顔で頷き『伝説の蝶』をイメージする。
　リスの話によると、その地図はこの辺りの地図と、『伝説の蝶』の目撃情報を記したものだという。５人（とハルくんと花遊）はその地図を見ながら次はどこを探そうか、と話し合っていたその時。メジロが慌てて声を上げる。何事かと思い翼の指し示す方向を見れば、キラキラ輝く蝶の姿が……！
「あれって……『伝説の蝶』かな？」
　初の言葉に、夏夜たちの目が輝く。
「行ってみよう！」
　幸次は夏朝と夏夜を花遊に乗せ、リスは初を抱きかかえ、メジロは一閃の肩を足でつかみ……。そのキラキラと輝く蝶を追いかけて行った。


「もしかして、あれ……？」
　初が指さした先、そこには青い蝶が飛んでいた。だが、彼らが捜している『伝説の蝶』ではない。内心で落胆しつつも夏夜は眼鏡を正す。
「手がかりは今まで得た情報の中にあるはず。別の所を探そう」
「それがいいかもしれないね……」
　幸次が頷いていると、ここまで手伝ってくれていたメジロやリスが「自分たちもついていく」と仕草で示す。
「どれだけかかるかわからない。それでもかい？」
　夏夜が問えば、１羽と１匹はこくり、と頷く。リスは力こぶをつくってみせ、メジロはゴーグルをかけ、くるりと回る。やる気は十分のようだ。
「なら、一緒に行こう！」
　幸次の声に、一閃と初も頷いて新たな旅の仲間を出迎える。リスとメジロは嬉しそうに尻尾や翼を動かした。
　夏朝は盛り上がる仲間たちを見、ハルくんをみて１つ頷いた。
「きっと、いるよ。『伝説の蝶』は……。みんな、行こう！」
「「おーっ！！」」
　５人と２匹と１羽の旅は、まだ続くようだ。