漂流　～宇宙にて～｜リアクション

漂流　～宇宙にて～

【宇宙（そら）へ】

　他が探検している頃、そしてあれこれ操縦室で議論している頃と同時間の事であった。
「行けそうか？」
「問題ないよー」
「こちらも大丈夫そうね」
　刀は円とこまちの宇宙服をチェックしつつ、船内で見つけた宇宙服のマニュアルを見返した。
「天運の桜庭、期待してるぞ！」
　そう言いつつ、別室へと退避しようとする。
「あら、私にはなにも無いのかしら？」
「えっ……が、がんばれ？」
　刀は困ったように返事を返す。その様子にこまちはくすくすと笑った。
「さすがだねー」
　釣られて円もからかうように言った。
　今、円とこまちは今まさに宇宙へ出ようとしていた。
　きちんとマニュアルまで置いてある律儀さに内心びっくりした刀だったが、てきぱきと協力してこなしていった。
「エアロック確認、ハッチ開放まで六十秒だ。二人とも命綱はつけているな？」
　刀が別室からアナウンスする。
　二人はオーケーと手の形を作った。
　そこから必要な行程をすべてこなしていく。
「２……１。オープン！」
　ブシュゥゥゥゥ！　と外へと扉が開いていく。
　その瞬間、常闇が円とこまちの前に広がった。
「すごいすごい！」
　円はなんとなく無重力ではこう動くのだろう、という動きをしつつ外を見る。
「……地球は、青いのですね」
　こまちは、ふわふわと宇宙船の外壁に捕まりながら、ここから見える地球を見て、感動した。
　言いようも無い感情が胸の中にこみ上げてくる。
　郷愁かそれとも、感動か……。
　無重力とおおよそマイナス二七〇度の気温とともに二人を包み込む。
　星々のきらめきが、三六〇度の角度すべてにきらめいている。
　音も無く、ただ、そこに「あるべくしてある」姿に言葉を失った。
「時よ止まれ、お前は美しい……なんてね」
　ぼそり、と円が言う。
　その壮大な光景は、どれだけ自分たちが小さなものか……それがはっきりと理解できた。
「感じるもの、見えるもの……すべて本物のようね」
　宇宙船の外を巡りつつ、こまちは怪しい場所が無いかチェックをする。
　その瞬間、きらりと宇宙の彼方から何かが飛来するのが見えた。
「……危ない！」
　その軌道が分かったとき、こまちがとっさに声を上げた。
　しかし、その声は届かない。
　ただ、妙なカンが働いたのか、円は幸運にもその方向へゆっくりと振り返った。
「！？」
　胸元に、一発。
　飛来した小さな石が当たる。
「いけない！」
　こまちは円の命綱を握ると、外壁伝いにハッチの中に戻る。
　そして、円を引っ張り込んだ。
「はぁ……はぁ……」
　円は小さく息をしている。
　宇宙服が破れた様子はない。
「御剣くん！」
　慌てて、こまちは刀を呼ぶ。
　刀は慌ててハッチを閉めると、マニュアルに従い、環境を元に戻す。
「う～ん」
「よかった、怪我はないみたいね」
　こまちは安心してほっと息をついた。
　円の手には二つの石が握られていた。
「とりあえず、戻ろう。医務室で念のため見てもらう」
「そうね」
　そう言って、円を連れて刀とこまちは引き返したのであった。