霊界鉄道危機一髪☆寝子島おばけパニック！｜リアクション

霊界鉄道危機一髪☆寝子島おばけパニック！

寝子島電鉄霊界線　赤朽葉駅（４）

「だから、俺はお前を抱きしめたいと言ってるんだ！」
「俺だってお前とキスしたいぜ！　あんなことやこんなことだってしたいぜ！」
　響蒼留人的に、脳を侵されるようなワンシーンが目の前で展開されていた。
　見知らぬ男子中学生２名が声高に、互いへの想いを叫んでいる。それはもう情熱的に呼び合っている。
　であるなら、なぜに彼らは苦渋と苦悶に満ちた表情を浮かべているのだろうか。
「まあ、不潔です！」
「……マガレ？」
　目を輝かせながらのマーガレット・ライカーの発言を訝しみ、蒼留人は目を見開く。
「ＢＬなんて大嫌いです。まったく、破廉恥ですね」
　そう思うなら、なぜに彼女の表情は輝きに満ちているのだろうか。
　よく分からないがともかく、蒼留人も笑みを浮かべて言った。

「ああ、そうだな。俺もＢＬが大好きだ！」
　マーガレットの瞳がいっそう輝いた。

　そういえば今夜の蒼留人はいつの間にやら、吸血鬼のような格好をしている。マーガレットも気がつけばふわふわ浮いて、身体は半透明に透けている。
（昨日見たホラー映画のせいですかね？　こんな夢を見るなんて）
　なんていい夢だ。
　だって、あの蒼留人が人目はばからずＢＬ大好きを公言するだなんて、ちょっとありえない。そうなったなら、友人としてはたいそう嬉しいところではあるのだが、現実的には考えにくいではないか。
　だからこれはきっと、素敵な夢なのだろう。
　……であるなら、なぜに蒼留人は心底うんざりしたような顔を浮かべているのだろうか。
「い、いや……そうなんだ！」
　マーガレットと蒼留人を見て、男子中学生たちはあらぬ誤解を受けたと思ったのか、必死に弁解する。
「思ったことが勝手に口から出ない！　思ってることが反対の言葉にならない！」
「はい？」
　彼らが語るには……いや語らないには、あまんじゃくとかいう小鬼にとり憑かれているらしい。高校生たちも、マーガレットも、そしてきっと蒼留人もだ。
　あまんじゃくに憑かれると、考えていることと反対の言葉を勝手に口走ってしまう。
「なるほど、それで分からない。ああ、俺はＢＬが大好きだからな……」
　おかげで蒼留人は望まぬままＢＬラブをアピールしまくっているし、中学生たちのありきたりな友情もねっとりと濃い愛情へと変換されてしまうのだ。
　しかしそこへいくと、マーガレットは涼しい顔である。普段からＢＬ嗜好は隠しているし、ＢＬ嫌いを口走っても何の問題もない。
（……あら？　でもこれ逆に、私もＢＬ好きを公言してることになるのでは……？）
「そうか、俺の中にはあまんじゃくが入り込んでいないし、角を触っても飛び出して来ないんだな」
　ややこしいがともかく、頭に生えた角を他人が触ってやれば、あまんじゃくはぽんと飛び出すらしい。ならば話は早いだろう。
「角……俺には無いな。マガレ、触らないでもらえるか」
「イヤです」
「えっ」
　反対の意味だ。
「イヤです。私、ＢＬにはまったく興味ありませんから」
「そ、そうか。分からない」
　マーガレットがいかにも残念そうに蒼留人の角へ触れると、ぽんっ。風船みたいな小鬼が飛び出してきた。
「ああっ、捕まえなくていい！　抱き締めないで！」
「え？」
　ああっもうややこしい！
　中学生の声に、蒼留人は弾かれたようにあまんじゃくのぷっくりボディへ手を伸ばす。逃げ回る小鬼を相手に若干手こずったものの、そのうちむぎゅっと抱き締めることができた。
「ふう、何とかなったか。あのな君たち、言っとくが俺はＢＬなんて興味ない……」
　こちらも互いに角に触れ、あまんじゃくを追い出した中学生たちへ、蒼留人は言い訳めいて否定しようとするのだが。
「まあ、響君。小鬼とはいえ男の子をそんな情熱的に抱き締めて！」
「は？　え、いや、というかこいつオスなのか！？」
「そんな破廉恥な行為に及ぶなんて、最低です！　すぐにやめなさい！」
　なおマーガレットの額にはまだ角が生えている。つまり、いいぞもっとやれ、である。
「だってこいつ、離してやったらまた誰かにとり憑いちゃうんだろ？　っというか、これはＢＬとかじゃない！」
「不潔！　響君のエッチ！　最低男！」

にっこり
「ご、誤解だ！　ちょっ、おい、マガレー！！」
　これが案外ノリの良いあまんじゃくが、蒼留人に頬をすりすり、ちょっぴり顔を赤らめてみせたりしているのがマーガレットにはグッドシチュエーションだし、蒼留人にとっては迷惑ほかならない。
　つまるところ言葉がどうあろうと、まったくもっていつもの二人なのだった。

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