希望＜ネガイ＞が現実＜ホント＞になるところ。それがらっかみ！｜リアクション

希望＜ネガイ＞が現実＜ホント＞になるところ。それがらっかみ！

【５】その他いろいろウソＷＯＲＬＤ
　早朝から寝子島シーサイドタウン駅の周辺は人々でざわついていた。
　コンコースが望める位置に巨大なビロードの布を被せた巨大な物体があった。布の合わせ目からはスタッフジャンパーを着た人間が引っ切り無しに出入りをしている。
　隠された中からは打撃音が響く。ドリルで穴を開けるような音が混ざる。
　近くに停められた大型のワゴン車の中、喜矢武あいおは青い瞳で作業の様子を見守った。
　すでにステージ衣装に着替えていた。頭部には黒猫の耳を模したカチューシャを嵌めた。薄っすらと灰色を帯びた白い長髪は胸元へ流れる。爽やかな青さを誇る和風メイド服に神秘的な要素を加えた。
　スタッフジャンパーを着た女性があいおに話し掛ける。
「飲み物はいかがでしょうか」
「喉がカラカラで。助かります」
　落ち着かせるように深呼吸を心掛ける。手にしたスマートフォンの画面に視線を落とす。
　リアルタイムで書き込みが増えていく。
『寝子島シーサイドタウン駅の前で何かイベントがあるらしい』
『あいおだよ。シスターズの一人の。どこかで告知を見た』
『MewTubeでやってたな。日にちは今日だ。ファンじゃなくても見逃せない』
　内容は瞬く間に拡散されて多くの人々が知ることになった。
「見ると余計に緊張します」
　スマートフォンの電源を落とし、座席に置いてあったバッグに収めた。
　再び目を現場に向ける。
「……人気アイドルになる、と心に決めていたことが……こんなに早くに叶うなんて、思いませんでした」
「あいおさんの実力で私達は当然の結果だと思っています。こちら、少し甘めのスポーツドリンクになります」
「ありがとう」
　受け取ると喉を潤すようにゆっくりと飲んだ。

　ビロードの布が突如、取り去られた。現れた巨大な物体に人々は足を止め、おー、と驚嘆の声を上げた。
　和服メイド服を着たあいおの姿をしていた。その前には本人がマイクを握って笑顔を見せている。
　後方には楽隊が控えている。全て女性でスタンダードなメイド服を着ていた。
　最初にドラムが動き出す。静かな調子で叩く。ギターが控え目に弾き始める。
「なんか、音が小さくないか？」
　首を傾げた人達が集まり始める。
　脚でリズムを取っていたあいおが楽隊に向かって微笑んだ。
　頷いたベースが周りと合わせてゆっくりと指で弾き始める。
　キーボードが抑えた調子で続く。ツインギターが静かに合わせた。
　巨大あいおで遠くの人を呼び込み、抑えた音量で近くの人の関心を引く。全てが上手く連動して相当な数を短時間で集めた。
　あいおは楽隊に向かって、始めるのですわ、と声を上げた。
　音量が一気に上がった。巨大あいおの背に隠れていた白い翼が左右に広がる。そこにはスピーカーが仕込まれていて大音量を可能とした。
「まだまだですわー！」
　あいおが観客に向かって叫んだ。そのまま一人だけ、浮上を開始。よく見ると巨大な両手によって上に持ち上げられていた。
　胸元で止まるとあいおは大勢の観客に向けて手を振った。
「MewTubeでお馴染みのあいおシスターズの一人、喜矢武あいおですわ！　皆の応援のおかげで最新のミニアルバムは百万枚を突破したのですわ！」
「あいお、最高だよ！」
「我らの不滅のアイドル、それがあいおだよ！」
　前に陣取った面々が声の限りに叫ぶ。全員が青色の法被を着ていた。背中にはあいおの愛らしい似顔絵が描かれている。
「今日はそのお礼を兼ねて『メガあいお』のステージでライブをするのですわ！」
　盛大な声援と拍手があいお達を興奮の極致に押し上げる。
「最初から飛ばしていきますわよーっ！」
　楽隊の演奏速度が上がる。観客はあいおの名を連呼して踊り始める。
　あいおは軽快な音に乗り、冴え渡る空に美声を解き放った。

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