希望＜ネガイ＞が現実＜ホント＞になるところ。それがらっかみ！｜リアクション

希望＜ネガイ＞が現実＜ホント＞になるところ。それがらっかみ！

　三人が砂浜を駆けて海に素足を浸したところで一閃が追い付いた。
「準備体操が先だ」
　手本を見せて三人が従う。
　夏夜は周りの二人を見ながら小声で言った。
「高校の先生みたいだね」
「教員実習生かな」
　夏朝がにこやかに返す。
「そんなに若くないって」
　初は苦笑した。
　無口を通していた一閃が一言。
「まだ二十代だ」
　三人は笑顔で同時に噴き出した。
　その後、一閃の許可が下りて海に入った。
「冷たくないよ。なんか、不思議！」
　平泳ぎの夏朝が興奮気味に言った。
　ぷかりと浮いて青空を眺める夏夜は、夢みたい、と幸せそうな顔で呟いた。
　初はクロールでとにかく泳いだ。一閃は立ち泳ぎで監視の姿勢を緩めなかった。

　泳ぎ疲れた三人は目配せして砂浜に戻る。そこかしこに猫がいた。
　夏朝の足元に寄ってきた。しゃがんで喉をくすぐると目を細めた。
「虹の橋を渡ってきたのかな」
「そうかもね」
「なんか和む」
　初は一匹の黒猫を抱き上げた。とても大人しく、喉をゴロゴロと鳴らした。
　一閃の元にも一匹の白猫が近づいた。円らな瞳で見上げて尻尾をゆっくりと振る。
　切れ長の目に微かな笑みが浮かんだ。
　時間と共に猫の数が増えてきた。
　夏朝は嘘を現実にしてキャットタワーを出現させた。猫は夢中になって上る。
「少し暑くなってきたね」
　空を見上げた夏夜は個別の日傘とパラソルを出した。
「俺が立てよう」
　一閃は体重を掛けてパラソルを砂地に埋め込んだ。
　周りの行動から要領を得た初はトロピカルジュースで全員をもてなす。
　パラソルの下、四人は両足を投げ出して穏やかな海を幸せそうな顔で眺めた。
　どれくらいの時間が過ぎたのか。砂浜に久隆が現れた。隣にいた理沙の胸では冬夜がすやすやと眠っている。
「遊び疲れたみたいね～」
　夏朝が冬夜の顔を覗き込む。
「今年の寝子島も、きっと楽しいよ。星幽塔も。だから、また来てね」
　夏夜が夏朝に寄り添う。想いを心の中で吐露した。
　――これからも寝子島のフツウを守る。平和を愛する人達に等しい祝福を。
　久隆は個々の顔を見ていく。
「嘘ばかり吐いた今日の最後に、家族の願いの一部は叶う」
「旦那様……」
　理沙の青い瞳が潤む。
「その嘘が叶うのなら、冬夜君は生まれ変わって、また私達の子供になるね……」
　久隆は黙って理沙の肩を抱き寄せた。

　同時刻、寝子ヶ浜海岸の人々が帰り支度を始める。
　曖浜瑠樹は仲間達に囲まれて砂浜にぺたんと座っていた。
「楽しかったねぇ」
　その反動で終わる悲しさが顔に表れていた。ラズとラピが励ますように瑠樹の背中をポンポンと叩いた。白猫のまちかは側で丸くなって大きな欠伸をした。
　太腿に座っていた細長いマティエが力強く海を指差す。目にした瑠樹は笑顔を見せた。
「四月一日が終わっても、今日のことが夢と思う人がいても、
　きっといい思い出として残るんだよぉ！」
　マティエは、それでいい、という風に頷いた。
　その声を近くで聞いた穂現まうは猫を撫でる手を止めた。
　正面にいたまうまうと目が合う。今日を惜しむような顔をしていた。
　まうの口から自然に嘘が零れた。
「寝子島は素敵でこれからも賑わう」
「猫鳴館にも良いことがたくさん起こるよ」
　まうまうが言葉を継いだ。
　二人は見つめ合って、またね、と揃って言った。

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