宝探しで走りまくり｜リアクション

宝探しで走りまくり

　金髪のウェーブボブを弾ませて北原みゆきが部室棟に急ぐ。隣りには逆巻天野が涼しげな顔で同行していた。それとなく眼鏡の位置を指で正して、宝探しか、と口にした。
「ごめんね。突然に誘って」
「別に構わないよ。今日はバイトがなくて暇だから」
　天野は優しい目をしてみゆきに言った。少し遅れて、ありがとう、と小柄な彼女らしい声が返ってきた。
　二人は校舎を抜けて部室棟に行き着いた。少し興奮した表情で、みゆきが探検部のドアを開けた。
「大変だよぅ！　正門に変な紙が貼ってあったよ！」
「なんだ、変な紙って？　探検部と関係があるのか」
　一番乗りを果たしていた龍目豪が訝しげな目を向けてきた。
「それはですね、えっと」
　すぐに考えがまとまらないのか。みゆきに代わって隣にいた天野が答えた。
「内容が宝探しなので探検になるかもしれません。ちょっとした謎解きもありました」
「謎解きか。俺の苦手な分野だな。そっちの方面は北原と逆巻に任せるぜ」
「それでは部長。早速ですが寝子島の地図はありますか」
「もちろんだ。少し待ってろよ」
　豪は部室の片隅にしゃがんだ。筒状に丸められた物を次々と手に取り、一本を携えて戻ってきた。
「これが寝子島の全景図だ」
　折り畳みの長机の上に地図を広げた。四隅には小さなアラビア数字とアルファベットが記されていた。
　天野は携帯電話に写した問題を黙読して、地図上のＥ‐１２の岬を指差した。
「一問目は『１３に似ているもの』がヒントなので、Ｄのエノコロ岬灯台はどうでしょうか」
　豪は地図に顔を近づけた。みゆきは問題を書き写したメモ帳を、そっと前から差し出す。
　両方に目を通した豪が顔を上げた。その表情は冴えない。
「１３に似てるというか、近くだけどな」
　豪と天野は机を挟んで向かい合い、考え込むような表情で口を閉じた。両者の様子を交互に目にして、あのぉ、とみゆきが声を掛けた。
「私なりの推理なんだけど、Ｂかな」
「北原はＢと思うのか。その理由はなんだ？」
　豪はみゆきに注目した。僕も知りたいな、と側にいた天野も視線を寄越した。
「あのぉ、間違ってるかもしれないよ？　だけど、１と３をくっつけたらＢに見えるかなって思うの」
「なるほどな。現場にある物の形じゃなくて、選択肢のアルファベットのことか。反則っぽいが、ありっちゃありだな。天野は、どう思うよ」
「そうですね。考えもしなかったですが、言われてみるとＢで納得です」
「目的地はＢの落神神社で決まりだな。あとは二問目か」
　豪の言葉に天野とみゆきが、それとなく目を交わした。じゃあ、と天野が声を出した。
「サビは漢字にすると金偏に青なので、ヒントの金を取ると青になります。答えは青の石の下だと思います」
　豪の視線を受けたみゆきは、にっこりと笑って頷いた。
「第二の謎は、二人の意見が一致してるし問題なさそうだな。それにしても、よくわかったな」
「この手の問題は考えるよりも直感が大切です。北原もそう思うよね？」
　先輩の顔を立てるかのような言葉遣いで天野はみゆきに話を振った。うん、そうだね、と場に見合った相槌が返ってきた。
「じゃあ、行くか」
「部長、出かける前にこれ、つけませんか」
　天野は携帯用の虫除けスプレーを制服のポケットから取り出して見せた。
「そつがないというのか。なんでもありだな」
「部長の行動力と人徳があればこそ、ですよ」
「私もそう思うよ」
　各々が相手の士気を高めていく。その最中、行くぞ、と力強い豪の一言で探検部は活動を開始した。