宝探しで走りまくり｜リアクション

宝探しで走りまくり

　寝子島高校の正門から少し離れたところに亀頭出は改めて立った。広めの額に浮かぶ汗を掌で拭う。
「やれやれですよ」
　二十五分前、正門に貼られた紙の内容をサラリーマン風の男がメモ帳に書き記した。それで満足したのか。男は再び歩き出した。出は目立たないようにして付いて行く。寝子島シーサイドタウン駅まで尾行して通勤と気付いた。時間の浪費に愚痴を零しつつ、全速力で戻ってきたのだった。
　気を取り直した表情で正門に目を向ける。
「もう少し近づいても大丈夫そうですねぇ」
　道を行き交う人々に奇異な目で見られることはなかった。緑のジャージが効いていた。姉のおさがりで今も普段着として役立っている。
　出は貼り紙をした正門の横で待機した。結果的に立ち続けた。太腿の辺りを軽く手で叩いた。続けて屈伸運動に精を出す。
「……朝から立ちっぱなしなので疲れましたよ」
　出は正門に背中を向けた姿で胡坐をかいた。閑散とした通りを見ながら右手に出現させた唐揚げに齧り付いた。

　校内であっても撥ねた髪を気にすることはない。日暮ねむるは眠そうな目で正門へと歩いていた。
「ふぁあ……何を買うかな」
　正門を出たところで、ねむるは足を止めた。自然に斜め下に目がいく。
「……いずるさん？　こんにちは、えっと、何か寝子高に用事ですか？」
「ねむる店長ではないですか。いいところに来てくれました」
　出は目を輝かせて立ち上がる。
「そうなんですか？　僕は昼のお弁当を買いに行くところで」
「のんびりと食べている場合ではありません」
　出は食べ掛けの唐揚げを口の中に放り込んだ。これです、と正門の貼り紙を掌で叩いた。
　ねむるは困ったような微笑みで文章に目をやる。
「へぇ、宝探しか」
「立ちはだかる謎解きが問題なのです」
「こう見えて僕。謎解きとかそういうの結構、好きなんだよねえ」
「出さんは宝が大好きです」
　みたいだね、とねむるは文章を読みながら返した。微睡むような目を少し開いて、ふぁあ、と小さく欠伸をした。どうですか、と出は心配そうな声を出す。
「答えが合っているかは別として。一応、推理はしてみたよ」
「本当ですか。では、急いで行きましょう」
　出は左右に目を走らせた。今にも駆け出しそうな前傾の姿勢を取る。ねむるは落ち着かせるような内容を口にして、ようやく一問目の解釈に話が映った。
「まず最初の指示だけど、『１３に似ているものを選んで探せ』ってあるよね」
　うんうん、と出は頻りに頭を振った。団子状に結わえた髪も賛同するかのように揺れ動いた。
「選択肢はアルファベットでＡからＥまである。１３を１と３の二つの数字に置き換えて密着させると、Ｂに似てるよね？」
「確かに似てますねぇ。それ、絶対に正解ですよ」
「それじゃあ、Ｂの落神神社に行こうか」
　もちろんです、と出はねむるの手を引っ掴んで歩き出した。
「二問目は歩きながら話をしよう。たぶん、これも正解なんじゃないかな」
「宝は手に入れたも同然ですね」
「そうだね。これでお宝は僕たちのものだよ」
　ねむるは安心し切った顔で、ふぁあ、と欠伸をした。
「……宝はいただきなのです」
　先頭に立った出は、うっすらと眉根に皺を寄せて小狡い笑みを浮かべた。

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