宝探しで走りまくり｜リアクション

宝探しで走りまくり

　垂れ目を特に大きく見開くことはしないで恵御納夏朝は正門と向き合っていた。
「……宝って？　猫さんに関係あるのかな」
　無表情のまま、小さなメモ帳を手に取った。一文字も見落とさないで正確に書き写していった。書き上がった文章に改めて目を通す。
　夏朝はメモ帳の空白に１と３を寄せて書いた。その横にアルファベットのＢを書き入れる。
「……ちょっと似てるかも」
　僅かに顔を横に傾けて１と三を先程と同じ方法で書いた。
「Ｅに、見える？」
　クエスチョンマークを入れたあと、Ｂを丸で囲った。メモ帳を制服の胸ポケットに入れると、夏朝は校庭を右手に見ながら歩き出した。
　道を右に曲がったところで立ち止まる。左に顔を傾けると民家の塀の上に白い猫が座っていた。陽射しの中で目を閉じて、垂れたしっぽを気ままに動かしている。
「猫さん……可愛い」
　夏朝は近くまでいって見上げた。手を伸ばせば猫の尻尾に届くかもしれない。
「でも……逃げちゃうかも」
　猫は変わらずに眠っているように見える。猫さん、と呼び掛けても目を開けなかった。関心を持たれていないのだろうか。
　夏朝は肩に引っ掛けていた鞄を下ろして猫型パペットを取り出した。左手に嵌めて人差し指と親指を入れた手を動かしてみる。盆踊りを踊るような格好も試して猫に向き合った。
「これは……人形劇だから」
　自分に言い聞かせるようにして左手を上げた。
「やあ、そこの白い猫ちゃん。初めましてだね」
　夏朝は軽い調子で猫に話し掛けた。本人も登場人物の一人となって明るい表情に変わった。
　目を閉じた状態で猫が耳を動かす。外部からの刺激に反応しているようだった。
「そろそろ、お目覚めの時間かな。良かったら、ぼくとお話をしようよ。同じ猫なんだし、気が合うと思うんだよね」
　パペットは両手を広げたあと、愛しい自分を抱き締めるような動作で頷いた。
　すると、猫は目を開けた。パペットの両手が相手を受け入れる為に広がった。
「どうして……」
　白い猫は塀の上を疾走。死角となる庭の方に跳び下りた。パペットの首は折れたようになり、これ以上はないという失意を表現した。
「俺達が近づいたせいかも。邪魔して悪かったな」
　夏朝は後ろを振り返ると、間近に刀と円が立っていた。
「あ、気にしないで。それよりも……」
　パペットに引っ張られる形で円の前に立った。夏朝の視線は右肩に固定された。
「見事な模様の茶トラだね。このぼくに紹介してよ」
「あ、そうだね。ボクの飼い猫のにゃーくんだよ」
　円は夏朝とパペットを交互に見遣る。
「にゃーくんっていうのか。ぼくの飼い主の夏朝ともども、よろしくね」
「話の途中で悪い。俺達はこれから落神神社に向かうんだ」
　刀の話にパペットが顔を向けた。そして両手を合わせて何度も頷く。
「もしかして宝探しをしているのかな」
「ああ、そうだ。そちらもか？」
「そうだよ。でも、ぼくの飼い主は無類の猫好きだから、よく足止めされるんだよ」
　パペットで自分に話を振って、ごめん、と夏朝は謝った。まるで一人二役の劇を見ているかのようだった。
　自然の流れで三人は揃って山道に向かう。
　途中、パペットは刀から煮干しを貰った。両手で挟むようにして円の猫に与える。愛らしい食べ方には身振りで盛大な拍手を送った。
　操る夏朝は満面の笑みを浮かべていた。

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