宝探しで走りまくり｜リアクション

宝探しで走りまくり

　その赤いリュックは明らかに猫を模していた。上部には猫の耳が付いている。下部には尻尾があり、後木真央の歩行に合わせて揺れていた。
「真央ちゃんは今日も陸上部、おサボりなのだ」
　真央は相棒のリュックを背負って中庭を元気よく歩いていた。クラブに向かう者達とは逆行した。
「新聞部の幽霊部員として活躍するお時間なのだー♪」
　頭頂の毛は上機嫌な猫の尻尾のように活発に動いた。
　幽霊部員で活躍って、と周囲の何人かが声を漏らした。真央が気にした様子はなく、一人の行進を続けた。
　真央は正門を抜けて、くるりと回る。手に持った携帯電話を掲げて言った。
「正門に貼られた所持者不明の文章に著作権はないのだ。転載ＧＯＧＯなのだー♪」
　猫のアイコンで馴染み深い、ねこったーに次々と文字を打ち込んでいく。
『ネームレス・クウェッショナーからの招待状　寝子島の宝の謎は誰が解く？　宝と誰得質問者を探せ！』
　真央は完成した文章を見て陽だまりの猫のような表情になった。満足そうに送信ボタンを押した。
「これでみんなも喰いつくのだ。答えがどんどん集まって、お宝一直線なのだ。真央ちゃんあったまいー♪」
「後木は宝探しに興味があるのか」
　落ち着いた様子で八神修は真央に声を掛けた。目は貼り紙の文字を追うかのように左右に動いた。
「修ちゃんも宝探しに参加するのだ？」
「宝に興味はないが、仕掛けた人物には興味が有るかな」
「こんな怪しい貼り紙をしたのは愉快犯に違いないのだ。謎を解いて貼った人物をとっちめてやるのだー、って言えればいいのだけど」
　興奮した声は最後で失速した。真央は口を尖らせる。
「真央ちゃん、謎が解けなかったのだ。ガッカリなのだ」
「何が正解なのか。この手の問題は幾らでも答えが考えられるよな」
「そうなのだ？」
　真央の子供のような緑色の瞳に修は少しの威厳を持って当たった。
「例えば一問目にある１３は数字として考えない。１は直線の道を意味していて、３のような九十九折に変化する。そう考えればＤのエノコロ岬灯台が怪しいな」
「なるほどなのだ！」
「１３の英語読みはサーティーンだ。イワシのサーディンに似ている。その関連で魚屋や水族館などが頭に思い付く。今回の候補にはないが」
　修の解釈に真央は次第に元気を取り戻していく。絵本の読み聞かせに夢中になる子供のようだった。
「１３をくっつけるとＢだな。アルファベットやＢの形状に似ているものなどが挙げられる。正解は幾つでも自分で作れるのさ」
「すごいのだー！」
　真央は一人で盛大な拍手を送った。何かを閃いたのか。自信に溢れた顔で片手を上げる。修は学校の先生役になって、どうぞ、と促した。
「真央ちゃんはＥの寝子島中学校を選択するのだ」
「その理由は？　いろいろとあると思うが」
「中学生は１３歳なのだ」
　なるほど、と口にした修は、考えるような仕草で視線を落とした。
「真央ちゃんは県外からの高校編入組だから、寝子中のこと全然知らないのだ。こういう機会に見ておいて損はないのだ。アホの子扱いされるのが得意な真央ちゃんは、見つかってもお目玉くらいで済むと思うのだ」
「それもいいだろう。俺も思った通りに動くとしよう」
「がんばるのだー」
　二人は手を振り合って別れた。数秒と経たない間に、猫さんどこから来たのだ、という声が修の耳に入った。
「自由に一生懸命か」
　優しげな笑みで修は足を速めた。