宝探しで走りまくり｜リアクション

宝探しで走りまくり

　周辺から部活動に励む声が聞こえてくる。運動部らしい揃った掛け声は走り込みを思わせた。
　その中、セミロングの黒髪をぎこちなく左右に振るようにして普堂しおりが歩いていた。本格的な走り込みを終えたばかりの運動部員を思わせる。
「放課後はお腹ぺこぺこだよ～。何か食べて帰ろーっと♪」
　しおりは見比べるように左右を見た。視界の隅に正門の貼り紙が割り込んだのか。顔を近づけていく。
「一問目のじゅーさん……ジューシー。この言葉の響きはジューシーで美味しい何かの気配がするよ！」
　頭の中の連想ゲームは過度の空腹によって捻じ曲げられた。しおりは携帯していたメモ帳に急いで文面を書き写した。
「なんか読みにくい……」
　自分の書いた文字に愚痴を零す。メモ帳を傾けても同じであった。
「あ、これって答えはＢかも。落神神社は走ればすぐだよ」
　悪筆とメモ帳の角度が一つの答えを捻り出した。
　しおりは一路、神社への道を急いだ。

　艶やかな額にハンカチを押し当てる。しおりは落神神社を一望できるところに安らかな表情で立っていた。
　各灯篭の下には苔むしたような石が置かれている。見た目の重さが六十キロ近くありそうな大物まで含まれていた。それを退けようと奮闘する二人がいた。
「出さんに腕力を求めてはいけません」
「僕もそうだよ。ふぁあ～、もう眠くて倒れそう」
　出の言葉にねむるが返す。二人は横並びで同じ石を押していた。
　それとは別の二人が境内を駆け回っていた。追い掛ける武論が夏帆の背に向かって声を荒げた。
「汚い忍者にも程がある。こんな石で妨害を謀るとは何事だ」
「汚いは褒め言葉よね。今回は私だって被害者みたいなものだわ」
　夏帆の言葉に武論は茹で上がった顔で、そんなことあるか、と怒鳴った。
「目に付いた灯篭の全てに石を置いたから、私も退けないといけなくなったのよ」
　夏帆は沈んだ横顔を見せた。完全に被害者に成り切っていた。その姿を目にして武論の日本語が少々おかしくなった。怒りが頂点を越えたのかもしれない。
「えっと、次は灯篭の下が問題だね」
　騒動の只中、しおりはメモ帳を取り出した。『金青の石の下』と書き殴られていた。サバの漢字が大きくて『金』と『青』が独立した文字に見える。書いた本人も困ったような表情を作った。
「金青って何？　まぁ、いいや。次は金を取るのね」
　しおりは取り出したペンで『金』の一字を塗り潰した。最後に音読して驚きの声を上げた。個々の要素に自身の解釈を入れて声に出していく。
「ジューシーで美味しいＢ級グルメは金賞を取れる……青が示しているのは……サンマだね。この問題にはサンマさんの秘密が書かれているのよ」
　しおりはメモ帳の頁を捲り、選択肢にあった地名を口にしながらペンで点を記した。それらを線で結ぶと、歪な菱形が浮かび上がった。
「寝子高正門を目とすると、俯くサンマさんの顔が！　視線の先には鈴島が……噂によると彼の特技は天体観測。つまり鈴島は遥か昔に宇宙から飛来した隕石なんだよ！」
　出とねむるの耳にも声が聞こえたのか。それはない、と否定の意味で軽く手を振った。
「青い惑星に隠された青魚の意志とは。それが暴かれた時、『鈴』が内包する『宝珠』の力が、この世界に発現する、とかね！」
　二人は引き続き手を振った。
「ここが怪しいよね」
「手伝ってくれるのですか？」
　出の弱々しい問い掛けに、任せてください、と元気に答えた。しおりは灯篭の周囲に目を凝らす。
「この石を一緒になんとかしてくれると、助かるのだけど」
　ねむるの言葉を受けて、しおりは石と向き合った。上部の苔むした部分を掌で払って『青』と太字のペンで書いた。
　目にした出は相手の意図を探るかのように声を掛ける。
「何かのおまじないですかねぇ」
「宇宙の神秘に触れる為の代用品です！」
「そうですか。宇宙の神秘ですか。それでは仕方ないですね」
　今までの疲れが一気に襲ってきたのか。出は大きな溜息を吐いた。
「次はこれ！　サンマさんストラップ！」
　鞄の中から取り出したストラップを石の下に入れる。指先で突くようにして何度も押した。
　ねむるはそれとなく出の方を見た。どうぞ、という風に手を差し出した。
「えっと、そのストラップは何かな？」
「見ての通り、サンマさんストラップよ。ゲーセンでたくさん取ったから、無くなる心配はないわ」
　しおりは立ち上がった。はみ出たストラップは靴先で捻じ込んだ。仕上がりに満足そうな笑みを浮かべる。
「他の場所にもストラップを埋めにいかないと。謎の組織が裏で動いているかもしれないわ。私も迅速に行動しなければ！」
　出とねむるは三度、否定の意味の手を振るのであった。

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