【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――｜リアクション

【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――

　テーブルの隅の目立たない位置に佐藤英二がいた。紙コップの緑茶を飲みつつ、手に持ったサンドイッチを齧る。断面を見て感心したように頷いた。
　――普通の卵サンドではないようだ。隠し味にウニが入っている。
　何度も咀嚼した。鼻から息を吐いて、美味い、と深い一言を漏らした。
「それに」
　紙コップの緑茶を刻むようにして飲んだ。
「……玉露だよな」
「佐藤じゃないか」
　横手から声を掛けられた。英二は視線を上げた。高い位置にある精悍な顔が白い歯を見せて笑った。
「先輩、明日は卒業式ですね」
「そうだな。どうだ、楽しんでいるか？」
「場違いなところにきたような気がして、少し緊張しています」
　ちらりと見た先の大皿には薄桃色の大トロの握りが光を纏っている。円を描くように置かれていて大輪の花のようだった。
「豪華だよな。ホテルを貸し切っているみたいだ」
「そうですね。皆さん、それなりに楽しんでいるみたいで良かったです。もっとしんみりした雰囲気になると思っていたので」
「俺は少し、そんな気分になっている。見た目では、そう見えないと思うが」
「そんなことは。先輩、寝子校で一番の思い出って何ですか」
　英二は聞いてみた。そうだなー、と目を細めて静かに口にする。
「柔道の地区予選の決勝で負けたことかな」
「それは悔しい思い出でしたね」
「最初はそうだった。でもな、俺の負けた姿を見て泣いた後輩達に、なんか感動して。今でも思い出すと、ちょっと目にくる」
　目尻を小指で拭うと照れ隠しに笑った。英二は気付かない振りをした。
「卒業後の進路は、やはり大学ですか」
「そのつもりだ。もちろん、柔道は続けていく。全国制覇、一度でいいからしてみたいもんだ」
「頑張ってください」
「おう、やるからには全力を尽くす。来年は佐藤が卒業生だ。悔いのない学生生活を送れよ」
「わかりました」
　英二の肩をポンと叩くと他の卒業生の集まっているところに歩いていった。
　――悔いのない学生生活か。
　英二は壁に飾られた四季の絵を眺めた。