【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――｜リアクション

【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――

　出入り口に近いところに人が集まっていた。目当ては料理ではなかった。中心にいるのは三宅葉月で簡易イスに腰掛けてスケッチブックに向かう。手慣れた様子で鉛筆を走らせた。
　対象となった男子が口の端でニヤリと笑う。
「男前でよろしく」
「人物によるわ」
　葉月は素っ気なく返した。全体を描くと色鉛筆に持ち替えた。少ない配色ながら特徴を捉え、深い味わいを醸し出す。
　完成した絵をスケッチブックから切り離し、完成よ、と一言で手渡した。左右にいた男子が絵を覗き込む。
「そっくりだな」
「それだけじゃなくて、なんか、明るい感じが表現されているような」
「まあ、俺らしいのは認めるよ。三宅、ありがとな」
　三人組は連れ立ってテーブルに向かう。穴を埋めるように二人の女子が割り込んだ。
「三宅さん、今度は私達を描いて貰えるかな」
「お願いします。彼女、海外留学が決まっていて、卒業すると離れ離れに……」
　言い終わる前に涙ぐむ。隣にいた女子が、早いよ、と笑って背中を摩った。
「いいわ」
　葉月は再び鉛筆を握った。二人は寄り添って笑顔を見せる。
「少しの間、動かないで」
　言いながらスケッチブックに二人の全体を描き、細かい部分に取り掛かる。特に表情に繊細な線を入れた。
　色鉛筆を手にすると目や頬に感情を加える。唇は柔らかく表現した。一部に悲しみの要素の硬さを添えた。
「一枚だけど、いいかしら？」
「大丈夫、私はこれで海外に持って行くから」
　スマートフォンを取り出してにっこり笑う。完成した絵は隣で目を潤ませていた女子の手に渡った。
「次は俺、いいかな」
「その次はわたしも」
　葉月の周りには人が絶えない。物憂げな緑の瞳で、いいわ、と口にした。ウェーヴした髪を軽く後ろに払ってスケッチブックに意識を注いだ。
　何人もの卒業生の絵を描き、ようやく解放された。簡易イスからふらりと立ち上がり、目に付いたサンドイッチを摘まんで口に運ぶ。
「……今年も例年通りね」
　儚い表情で何もない空間を眺めた。