【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――｜リアクション

【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――

　催し物のゲームの余韻が残る中、司会役の遠海がマイクを口元に持っていく。
「次は送る会らしさが一杯のスライドショーになります。少しの間、暗くなりますのでご注意ください」
　月詠が舞台袖からゆっくりと現れる。黒子姿の者達が一斉に動き出す。照明を落とし、手慣れた様子で窓に暗幕を張る。一人はスクリーンを用意。別の黒子はプロジェクターを仕掛けて待機した。
　マイクを受け取った月詠はぺこりと頭を下げる。
「これからスライドショーを始める。全学年を対象にしているので卒業生も在校生も楽しめる内容になっているのか？」
「そこは言い切ろうよ」
　身長のある女子が苦笑いで言った。
「笑いと涙と血と汗と男と女の感動大巨編を楽しんで貰う」
「なんか、色々とネタが混ざってないか」
「学校行事だと思うけど、感動大巨編って」
　静かな笑いが起こる。その中、月詠は乏しい表情で、スタート、と宣言した。
　スクリーンに寝子島高校の正門が映る。満開の桜に囲まれた道で多くの生徒達がはしゃいでいた。
「俺がいるよ」
「これ、入学式だ」
　賑やかな声が上がり、場は盛り上がる。
　雨模様の場面は梅雨を思わせた。色とりどりの傘がくすんだ空に映える。
「あれは吉田じゃないのか」
　端の方に入り込んだ男子は横にいる女子と話をしながら登校しているようだった。
　一斉に指笛が鳴らされた。
「違うって。他人の空似だ」
　赤面した男子が顔の前で手を振って否定した。
　囃し立てる声が収まることはなかった。
　季節は変わった。途端に場が静まる。スクリーンには青い海ではしゃぐ女子達が映し出された。
　月詠はマイクで語る。
「ささやかなサービスカットと言える」
　反論は出なかった。男子を中心に食い入るように見つめる。
　新緑の季節は過ぎ去った。色づく九夜山を背景に生徒達が部活動に励む。公認のクラブだけではなく、同好会の一場面も映し出された。
　全てを白く包み込む。雪に塗れた生徒達が第一グラウンドを走り回る。
　四季を巡ったあとは個人に焦点を当てた。悲鳴に近い声や笑い声が場を和ませる。
「これって旅鴉だよな？」
　スクリーンには絵を描く白衣の人物が大きく映る。場面が変わると青いハンチング帽を被ってカンバスに向き合っていた。更に続き、画材は変わってもひたすらに絵を描いている。
「描いてばかりだな」
「それ、正解」
　淡々とした表情で月詠は肯定した。
　最後は卒業生が主役とばかりにスクリーンを埋めた。すすり泣くような声が聞こえる。励ますような声もあり、感動が静かに染み渡っていった。
「多くの卒業生の姿は新聞部の提供だよ。はい、拍手！」
　いつの間に用意したのか。スポットライトがカメラを持つ八神修に当てられた。
「突然、話を振るなよ」
　照れ笑いを浮かべた修は表情を改める。
「新聞部の部長を務めている八神です。今日の『卒業生を送る会』と明日の『卒業式』で取材をして卒業式特集号を作ります。皆さん、ご協力のほど、よろしくお願いします」
「協力するよ」
「良いスライドショーだったよ」
「ありがとう」
　温かい声が集まる。照明が点くと耳が痛いくらいの拍手が起こった。
　月詠はくるりと向きを変えて舞台を降りる。
「次は厨房か」
　口にして講堂を出ていった。