【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――｜リアクション

【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――

　優雅なヴァイオリン演奏が終わると司会役の遠海が舞台の中央に立った。
「次は趣向を変えまして、ビンゴゲームとなります。縦横五マスのシートを配ります。ゼロから九十九の間で好きな数字を書いてマスを埋めてください。同じ数字は書かないようにしてくださいね」
　係の者がシートを配る。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
　差し出されたシートを森篠琳子は受け取った。
「……ビンゴね」
　同級生は嬉々としてシートに数字を書き込んでいる。琳子は講堂の壁を利用して適当な数字でマスを埋めた。
　舞台で眺めていた遠海は微笑みを浮かべた状態で腹を押えた。ソースが掛かったローストビーフを見た瞬間、意地汚い腹が鳴った。
「皆さん、用意ができたみたいですね。これから私が箱に入ったボールを取り出します。表面には数字が書かれているので、シートに同じ数字があれば印をつけてください。縦横斜め、どれかが揃うとビンゴになります。最速ビンゴ賞には賞品が出ます」
「楽しめそうね」
　琳子は手元のシートを見つめる。数字に偏りはなく、何かの法則に従っているかのように書き込まれていた。
　遠海は話を続ける。
「二十五回の抽選の間に出たビンゴの数で賞品が変わります。全ての数字が揃うと、びっくりです！　パーフェクトビンゴ賞として世界一周クルーズをプレゼントしちゃいます！」
　どよめきが起こる。
「マジかよ！　すげーじゃん！」
「すげーのです！　提供してくれた寝子高の先輩に感謝です！　太っ腹にも程がある！」
　マイクを食べる勢いで遠海が返す。
　異様な興奮に包まれてビンゴゲームが始まった。一回目の数字で落胆の声が上がった。パーフェクトを逃したようで、二回目には大半の者が項垂れた。
「五回目の抽選の数字は六です！　ビンゴした人はいませんか！」
「斜めで揃ったわ」
　言いながら琳子は手を挙げた。
「おめでとうございます！　縫いぐるみ作家が手作りした、この子をプレゼントします！」
　声に合わせて係の者が大きな紙袋を持ってきた。
「ありがとう」
　受け取ったあと、紙袋の中を覗き見る。縫いぐるみは精巧で艶やかな目が愛らしい。
「妹の奏子が喜びそう」
　微笑んだところで六回目の抽選が行われた。全員の目が琳子に向かう。
「外れたわ」
　本人に代わって、ああー、と何人もが悔しそうな声を漏らす。
　ビンゴゲームは続けられた。運に翻弄された者達の喜びと悲しみが入り混じる。その後も似たようなゲームが行われ、琳子は首を傾げた。
「こんなこともあるのね」
　足元には得た賞品が山のように積まれた。