ファンタジーDay★｜リアクション

ファンタジーDay★

～シーサイドタウン。寝子島高校前～

「学校には……ああ、やっぱり生徒が居るな。こんな異常事態だっていうのに……」
　灯斗南は寝子島高校の校門前に立ち、呆れたように呟いた。
　斗南の格好は皮の胴衣にピッチリとした長袖。動きやすそうなズボン。
　眠そうな目は炎使いを意匠した仮面に覆われていた。
　その長い耳を見ると、エルフに変化しているらしい。

「その怠そうな声……あなた灯くんじゃにゃい？」
　背後から聞き覚えのある……けれども微妙に違和感のある声が聞こえた。
「ん？　にゃい？　……おぉ？　でっけえ猫！　な、なんだお前！？」
　あっけにとられる斗南の前に立つのは……
　タイトな革の上着に揃いの革パン。長い手足は白の短毛に覆われている。
　ちょこんと鼻の上にのった眼鏡がご愛敬だ。
「でっかくて悪かったにゃー。私よ、桃川圭花」
「……桃川？　たしかにその声は……それにしてもなんて格好だよ」
「あなたも人の事いえないにゃ。それエルフでしょ？」
　肉球を丸めて指差す圭花。
　斗南と違ってあまり驚いていないようだ。
「学校、自由登校らしいにゃ。校内はさながら仮装パーティーのようだにゃぁ」
「なるほどね……で、どーする？　俺は街に出ようと思うんだが」
―めんどくさいけど、スライムを放置しとくわけにもいかないしな……もっと面倒な事になりそうだし……―
「あら偶然。私も構外に出ようと思っていたところにゃ。こんな事、滅多にないことだし」
　尻尾が左右に揺れている圭花。
　立ち止まっていることが嫌いな性分が表れていた。
「それじゃ、一緒に行こうか」
―たまには誰かと共闘するのもいいよな。特にわりとかわいい女の子って所が良いし……―

「くんくん……こっちの方から化物の匂いがするにゃ！」
　ピンク色の鼻をヒクつかせる圭花。
「匂いって……すげーな……ま、確かに嫌な感じはするぜ」
　片目を瞑り、集中する斗南。
　互いに体の変容が、感覚を鋭敏にさせているようだ。
　二人の感じたとおり、細い路地からスライムがあらわれた。
「んにゃぁ～～～！　サーチ＆デストロイ！」
「ちょ、待て桃川！」
　しなやかに駆ける圭花。
　指先に力を入れる。革の手袋が破れ、爪が飛び出す。
　ふわりと空中に身を躍らせると、鋭い爪を振り下ろした。
　ザクッ！　ブシャー！　シュバ！　グシャ！
「にゃははは、面白いにゃ！」
　青いスライムが潰れ、黄色のスライムが四散する。
　体液がシャム柄の体毛を汚す。
「汚れちゃったにゃ！　ペロペロ……」
　毛繕いをする圭花。

「マジかよ……桃川、どうしちまったんだ」
　斗南は桃川の思いもよらない一面を見て、喉を鳴らす。
「くっ！　しょーがねー！　……やばっ、伏せろ桃川！」
　ピンク色のスライムの体にぽっかりと穴が開き……そこから濃い粘液のような物を吐き出した。
「ひゃう！」
　四つん這いになって伏せる圭花。

「そのまま！　くらええ！！」
　斗南の手の平から炎が噴きだす。まるで火炎放射器の様に激しい炎がスライムを粘液ごと燃やし尽くす。
　ブボフッ！　ギュガー！
　ジュワァ～～～～
　断末魔の悲鳴を上げながらスライムが蒸発する。

「あちあちあち～～～！」
「おっとっと、桃川大丈夫か？」
「大丈夫なわけ無いにゃ！　尻尾がちょっと焦げた～～」
　フーフーと息を吹きかける圭花。
「すまん。思ったより炎が強かった……どうやら、この世界では普段より威力が強くなるようだ」
「ふーふー……んーそうかもしれにゃい。妙に動きが軽いし。それに、エモノを見ると、体がムズムズしてきて……んにゃ！」
　不意に猫目？　になる桃川。
　その視線の先には、色とりどりのスライムが屯っている。
「んにゃ～～～！」
「ちょ、落ち着け……って……行っちまった……んったく、しょーがねーなぁ」