～早朝。風雲児 轟自室～

「んぅ～～良い天気だぜ！　今日もがっつり行くぜぇ」
　シャっと勢いよくカーテンを開ける風雲児 轟。
　どういう訳か目覚まし時計は止まっていたが、いつもと同じ時間に目が醒めた。
「電池変えたばっかりなのになー……よし散歩代わりに電池買ってくるか！」
　普段着に着替えた轟は、スニーカーをつっかけると、自室を後にした。

「あれ、どうしたんだ？　なんか変だぞ？」
　大通りに出て見るも、車は一台も通っていない。
　それどころか信号も真っ暗のままだ。
―人通りも無い……ん？　何か……―
「くっ！！」
　背後から殺気を感じた轟。咄嗟に体を前方に放り出す。
ビチャ！
　地面に水っぽい音を立てて、粘液が撒かれた。
「っとぉ！　な、なんだ？」
　素早く立ち上がる轟。身の危険を感じ、戦衣を装着する。
「戦衣装着！」
　全身が白く発光し、マフラー形マントと両手に円形の盾が装備された。
「おっと、今日は装備が増えてるぜ！　そんじゃ、俺は……って」
名乗ろうとする轟に、その暇を与えず、赤いスライムが襲いかかる。
「くっ！　しょうがねえ！　やってやるぜ！」
　横っ飛びで躱す轟。
　マントを掠めるスライム。
　そのままゴロゴロと転がり、少し離れた所で起き上がる轟。
「幻想一擲！　ザ・ストレイト／ファンタジア！　スライムどもめ、どこからでもかかってこい！」

　赤いスライムがぷるぷると震え、力を溜めている。
　その後ろではピンク色のスライムが煙を上げる粘液を垂らしている。
―どうやらスライムにも種類があるらしいな……良く見ておかないと……―
　円を描くようにスライムの周りを回る轟。
　バッ！　ドウゥ！　赤いスライムが飛び上がり、攻撃をする。
　盾でいなし、地面に叩き付ける轟。
　ビュビュ！
　ピンク色のスライムが液体を噴きだす。
　身を反らして躱す轟。
「なるほどな！　接近戦と支援型って感じか！　これはやっかいだぜ！」
　言いつつも白い歯を見せる。
―ならば……こうだ！―
　バッ！
　赤いスライムの攻撃を躱し、飛び込む。
　ビュビュ！
　予想されていた粘液の攻撃は頭を低くして躱す。
「先ずは、お前から……だ！」
　グシャァア！
　盾でピンク色のスライムを叩きつぶす。
　断末魔の叫びを上げながら絶命するスライム。
　そのまま返す手で空中にいた赤いスライムに打撃を与える。
　ガッ！　ドウゥ！
　アスファルトに叩き付けられた赤いスライムは、ぴくぴくと震えると、動かなくなった。
「ふぅ……なんとかなったな……こりゃ他の場所にもいるかもしれねえな……行ってみるか！」


～夏神神社。夏神 零自室～

「……これは……なんじゃ？」
　普段は三つ編みの髪には寝癖が着いている。
　パジャマがわりのシャツは、第二ボタンまで外れて、慎ましやか？　な胸が見えてしまいそう。
「お主は……だれじゃ？」
　ぬぼーっと姿見の前に立ち、鏡に話しかけているのは……夏神 零だった。
　先ず肌の色が違う。
　元々色白な零だったが……鏡の中の彼は漆黒の肌を持っていた。更に耳はピンと尖り、まるで異星人のよう。
　そして……心なしか色気が漂っている。
　元々女の子に間違われるような顔立ちだったが、どちらかというと清楚な乙女と言う感じだった。
　ダークエルフに化したせいだろうか。

「…………これは夢じゃな……ほれ、証拠に」
　艶やかにラインを描くほっぺたを指先で摘み……捻る。
「痛い…………はぁ～現実じゃろうな……」
　ほっぺたをなでなですると、着替えを始める零だった。


「とりあず偵察してみるのじゃ」
　臙脂色のファーが付いた黒系のワンピース。
　太ももには投げナイフ用のベルト。
　背中には弓と矢筒。腰にはショートソードが差されている。
　しっとりとした黒い肌と同色のリボンが、白い髪に映えていた
　朝靄の煙る神社の敷地は、いつもと同じ静謐な雰囲気が漂う。
―変わりはないか……じゃが、表は騒々しそうじゃの―
　境内を抜け、通りに出る。
「む！？」
　殺気を感じ身を伏せる零。棚引いた髪を掠める物体。
　反射的に投げナイフを抜くと、勘を頼りに投げつけた。
　プギャーーー！　ドォオオン
　絶叫を上げて絶命する物体。爆発により四散する。
「……ふぅ……物騒じゃのう……それにしても」
―なぜか、異様に感覚が鋭くなっているのう。拙者の姿は書物に寄れば、だーくえるふと言う種族らしいが……これも異変のせいかの―
　バラバラになっている物体に近づく零。
「……これは……すらいむとか言うのではなかろうか」
　回収したナイフで破片を突く。バチバチと小さな火花を立てていた。
―衝撃をあたえれば爆発するようじゃ……これは利用出来るかもしれぬな―
　荷物の中から小瓶を取りだし、中に詰め込む零であった。


～神木 煉自宅近辺～

「おいおいおい、こりゃどういう事だよ……なんでこんな格好してるんだ？」
　神木 煉は自分の格好を見て呟いた。
　日課の早朝ランニングをしていたはずだったのに……
　着物に袴、ご丁寧に草鞋まで履いている。
　ずっしりと腰に感じる重み……大刀と脇差しを差していた。
「帯刀してるし……しかもかなりの業物だな、これは」
　古流武術に通じている煉でも、お目に掛った事のない逸品だ。古刀……１００年やそこらの物じゃない。
　大刀の柄をなでる。既に使い慣れた物のように手に馴染む。

「……おかしい。格好も変だが……異様な気配がする」
　辺りを見回す……静かだ……
「んん！？　なんだ！？」
　不意に何か破壊的な物音がした。
　煉は反射的に駆け出していた。


「ぼうや、逃げて～～～」
　少年を襲っていたぶにょぶにょに跳び蹴りをかます少女。
「うあぁ～～～ん怖いよぉ～～～」
　転びそうになりながら、少年が走り去る。
「んもぉ、退治しちゃうぞ？　うりゃぁ～～～よいっしょっとぉ～～～！」
　朝靄煙る、町並みに、乙女の叫び声が響く。
　茶色のセミロングをなびかせながら、ハンマーを振り回す……藤堂 月乃。
　胴体をすっぽりと覆う鉄製の鎧と鉄兜。
　程よく筋肉の付いた足を、ブーツが覆う。
　ちらっと覗いている絶対領域がまぶしい。
　よく見てみると、普段の彼女とは少し体型が違っている……全体的にガッシリしていて、まるでレスリング選手のようだ。

「も一つ、いくよ～～～～！！」
―うふふ、どー言うわけか、こんな格好になってました。けど……これって結構……ううん、スッゴク、ワクワクする。この島は不思議なことだらけだし……思いっきり楽しもうっと―

　無邪気な笑みを浮かべながら、身長より大きいハンマーを振り回す。
―それにしても……このぶにょぶにょしたのは、なんでしょうねえ？―
　月乃がハンマーを振り下ろした先にいた物……それは黄色いスライムだった。
　ドガァアア！　ピギャーーー！
　四散するスライム。
「よっし！　ふぅ、全部倒せたかな？」
　ハンマーを下ろし、手の甲で額を拭う月乃。


「伏せろぉ！」
　不意に背後から男性の叫び声。
「ふわっ！？　は、はい！」
　月乃は前方に飛び込む。
「ふにゃ！」
　　ビュバッ！
　直後、髪の毛を掠めるように、青いスライムが通り過ぎた。

「そぉぉぉりゃああ！」
　飛び込んできた煉が抜刀しながらスライムを断ち切る。
　プギャーーー！
　真っ二つになった青いスライムは体液を撒き散らしながら地面に落下した。
「ふぅ……あんた、怪我無いか？」
　微かな金属音を立てながら納刀する煉。
　月乃の傍らに歩み寄ると手を差し出した。
「あ、だ、大丈夫みたい。ありがとうね」
―なんだか爽やかな人ね……それしても……お侍さんかな？―

「あの青いヤツ、隠れてて隙を狙っていたようだ。ああ見えても案外知性があるらしいな」
「そうなんだ。もしかして、色によって違うのかな？　赤いのはとにかく攻撃的だったし……あ、ピンク色のは液を吹いてきた！」
「なるほど。これはもっと調べた方がいいな」
―先ずは現在の状況を確認だな。人の集まるところに行った方が効率が良いだろう―
「俺は移動するが、あんたはどうする？　人手が多い方が情報は集まりやすいと思うが」
「良かったら同行させてもらえないかな。足手まといには成らないと思う」
　軽々とハンマーを掲げる月乃だった。