ファンタジーDay★｜リアクション

ファンタジーDay★

～シーサイドタウン駅構内～

「こっちだ！　今ならスライムどもも少ないはずだ！」
　圭花や煉達が気を引いている間に、ボス討伐組は構内に無事侵入することが出来た。
　エントランスを抜け、無人のロビーを駆ける。
　乗客や駅員の姿は見えない。
「うにゃ、どこに向かうにゃ？　上ならこっちのエレベーターじゃにゃいの？」
　恵御納夏朝が眠たげな声で尋ねる。
「ん、女…………ま、普段だったらな……今はアレだ……」
　くりくりとした目で見つめられて、しどろもどろになる劉。
「あ、もしかして……裏からにゃ？」
　ネコデン好きな猫村翡翠が何かに気がついたように声を上げる。
「そうか、メンテナンス用の通路か……あそこなら防火シャッターも有るし、スライム達も少ないかも知れない」
　八神修が助け船を出す。
「あ、ああ。そういうこった」
―ふぅ……助かったぜ…………さてと問題はその防火シャッターだが……―

　ガランとした構内を駆け抜け、奥まった通路を通り抜ける。
　程なく一行の前に関係者以外立ち入り禁止と書かれた看板が目に入った。
「うわ！　シャッターが降りてるよ！　どうする？」
　椿美咲紀がツンツンとシャッターを突く。
「う～～～んしょ！　…………ふぅ、これは、人力では開けらそうにないわね」
　ノーラが手を振りながら眉間にシワを寄せた。
「おそらく残った電源で下ろして、そのままなのだろう……迂回する手もあるが……」
　修がアゴに手を当てた。

「そこで力持ちさんの出番って訳だ。丸美、なのだっ子、ぶちかましてくれ」
「劉ちゃんさん？　わかったのだぁ～～～！」
「はぁ～～い！　それじゃ、いっせーのーせっでいくよ～～」
　後木真央、岡野丸美のドワーフコンビが元気よく返事をする。　二人とも小さな体に不釣り合いなエモノを持ち、シャッターに向かう。

「「いっせーのーせ！」なのだぁ！」
　バギャアアアン！
　騒々しい音を立てて吹き飛ぶシャッター。
　上階へのルートが開通した。

「けほっつ、けほっつ……よくやった二人とも！」
　砂埃に噎せながら声を掛ける劉。
「ん？……こちらに近づく物音が聞こえます……多分スライムです」
　床に耳を当てていた月が報告する。
「見つかっちゃったみたいにゃ……どうする？　迎撃するにゃ？」
　鯖トラ柄の塔尾松生がシャキッと爪を飛び出させる。
「ん～早くしないと、ボスにも気づかれちゃうかも？」
　どんなときにもマイペースな遠野まほろがのんびりとした声で呟く。
　一同の間に焦燥感が募る。
　時間は敵の味方かも知れない。

　劉が周りを見渡し、言い放つ。
「ボス討伐部隊は先に行ってくれ……幸いここなら少人数で食い止められると思う……丸美、つきあってくれるか？」
「やぁん！　告白きました～～★　劉ちゃん大胆♪」
　ぽちゃっとしたほっぺたに手を当てて、体をくねらせる丸美。ひゅーひゅーと口笛をふく一同。
「ちがっ！　そ、そーじゃなくてだな……時間を稼ぐだけだ！　い、いいから、おい、てめら、さっさと行きやがれ！」
　顔を真っ赤にした劉が上階を指さした。

「劉さん、死なないで下さいね……死なれる色々と困りますので」
　励ましなのか……いまいちはっきりとしない月の言葉を残し、討伐部隊は先へと進んだ。

　一同を見送った後。
　メンソールのタバコを咥え、呟く劉。
「さて、と……まったく……俺らしくもねーなぁ」
―調子狂いっぱなしだぜ……これもこのおかしな世界のせいだな……―
　ふぅ～っと吹きだした紫煙の先に、スライム達の姿が見えた。