ホラーハウスに行こうよ！｜リアクション

ホラーハウスに行こうよ！

　　【見ない方がいい事もある】

「おおっ、ナレーションをやってくれるというのかね！　これはありがたい。
　それは考えなかった。モニターの動きを見ながら、ボイスアクトレスが一人付けられればきっと盛り上がるぞ！」
　モニターのお客さんは既に外で列を成すほどに並んでいた。それに先立っての点検につい支配人の熱も入るというもの。
　しかし、一緒に並んで歩く檜扇舞華は淡々と天井やマジックミラーの位置を確認していく。

　「後、ボイスアクションを行うのにカメラを付けさせてもらいます。
　宣伝活動の一環としてネコネコ動画に流しても良いという方針でしたが」
　「ああ！　どんどんやってくれ！
　素晴らしい、自分からここまで引き受けてくれるバイトさんは中々いない。どうだろう、このままここに就職というのは……」
　「いえ、あたしは既に仕える身なので」
　支配人の言葉を軽くいなし、さっそく舞華は部屋の隅やマジックミラーの後ろ側の足りない部分に小型カメラを付けて回る。
　これは、監視カメラにもなる優れものだ。舞華が引き払っても、同じ方針で行うなら必ず役に立つ事だろう。

　「それに、脱出までに制限時間を設ける。
　如何でしょうか。客をあまりお待たせしない仕様として」
　「ああ、それについては考えたんだけれどもね。
　まずは、どの程度長居して怖がってもらえるかが分からないからね。
　ホラー度は増しそうだけれども、今回のモニターでは保留かな。何より、モニターを追い出しちゃったら意見が取れないからね。
　次回以降は是非参照にさせてもらうよ」
　珍しくまじめに考えている様子の支配人に、静かに頷き下がる舞華。

　そんな最中、どう見てもオネェな声が響き渡った。
　「ところで、支配人。あの件について考えてくれたかしらん？ｖ」
　「ああ、もちろんだとも！」
　支配人と、舞華。そして、その後を見渡すように歩いていた男性が一人。
　その外見たるや、まさに富士山権蔵先生のような、何かを失敗してしまったニューハーフ。
　その名も、ゲイバー『ジオフロント』のママ──ミッシェル・ナイスゲイ。
　「試運転に先駆け、ホラーハウス内で新たな恐怖を提供したいという君の信念は良く分かった……！
　だが、ホラーハウス根幹の趣旨は変えることは出来ない。しかし、ここはまだセミオープンだ！　受けが良ければ私も考えよう。一部屋貸すから、思い切りやってみるといい！」
　「ンフッ、それでは私はこの部屋を借りますわん。
　さあっ、早速アタシに相応しい改装に励まなくちゃねぇｖ」
　両手を広げ、モデル歩きで部屋に入っていくミッシェル・ナイスゲイ。
　名前からして不穏だが、支配人は持ちかけられた条件として賃貸費折半に負けた。負けたのだ。
　そう、この時点では、金に目がくらんだものの、客が何をされるのか分かっていなかった支配人だが。
　舞華はそっと──黙祷を上げるかのように、または、この部屋で起こりうる全ての事柄を見たくないかのように。

　そっと、その部屋の、カメラの一切合財を取り外した……

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