【お正月】賑やかで華やかな一時を｜リアクション

【お正月】賑やかで華やかな一時を

　キャットロードを踏破した高瀬誠也の歩幅が小さくなる。
　横手の信号が点滅を始めた。誠也は瞬間的に駆け出し、余裕をもって渡り切った。
「……福袋」
　呟くと足に力が戻り、先行する人々を次々に抜いた。長身でいながら身軽。滑るような足運びで寝子島シーサイドタウン駅に着いた。
　誠也は隣接する駅ビルｍｉａｏに迷いのない足取りで入っていった。
　歩きながら案内板をちらりと見て足を速める。
「あそこですか」
　前方に人だかりができていた。周囲には店員がいて、その中の一人が拡声器を口に当てた。
「福袋の用意が間もなく終わります！　もう少しお待ちください！」
　誠也は高い身長を活かし、最後尾から前方の様子を窺う。
　大きな二つのワゴンを連結させていた。中にはびっしりと福袋が詰め込まれ、係の者が小さなトランシーバーに向かって頻りに口を動かす。
　そこに拡声器の声が響き渡る。
「大変、お待たせしました！　福袋を再開します！　合図に従ってください！　くれぐれも危ない行為は控えるようにお願いします！」
　居合わせた者達は構えた。誠也は最後尾で状況を眺める。
「では、スタートです！」
　拡声器の声に合わせて人々が飛び出す。誠也は僅かな隙間に身体を滑り込ませて脅威の突進力を見せる。
「急がないでください！　福袋は十分な数をご用意しています！　転倒の原因になる行動は控えてください！」
　集団の先頭が福袋を掴んだ。次々に手を伸ばし、ワゴンに谷間ができる。
　誠也は目で判断した。斜めに動き、長い手を伸ばす。掴むと誰の手も届かない位置に掲げた。
　その姿勢で悠々と歩いて代金を支払った。中身の確認はしなかった。歓喜と悲痛の叫びの中をひっそりと抜ける。
「行きますか」
　福袋を提げて来た方向に戻っていった。

　駅ビルを出た誠也は噴水の近くのベンチに座った。福袋の封を切って中身に目を落とす。「仕立ての良いスーツですね。あとは時計……ネクタイピンには、ダイヤでしょうか」
　満足のいく内容なのか。表情は明るい。確認を終えた福袋は傍らのベンチに置いた。
　長い脚を組むとスーツのポケットに手を入れた。一冊のカラフルな文庫本を取り出す。帯留めには『破天荒なアイドルがテレビ業界に旋風を巻き起こす！』と勇ましい謳い文句に反して字体は丸い。