Sweetnessをさがして｜リアクション

Sweetnessをさがして

　わくわくのＢ級ホラー映画だったはずなのに、座席についた剣崎エレナは、あまり楽しそうな様子ではありませんでした。浮かぬ顔をして、『上映中は携帯電話の電源をお切り下さい』等鑑賞マナーが流れる銀幕を見つめています。
　そこに、
「おやエレナさん奇遇ですね」
　と呼びかけ、隣に座った人影がありました。
　その少女は、なかなか奇抜な扮装でした。
　黒の細長いリボンを髪に巻き、カチューシャにはネコミミをあしらっています。
　服は横縞ピンクの半袖を着て、その上に赤いベストを羽織る格好。デニムショートパンツをはいており、これにカラリングを合わせたしましまのニーソックスからこぼれる絶対領域がまぶしいところ。
　足元は革ブーツでキメ、さらにとどめとばかりに兎ぬいぐるみのリュックサックを背負っているのでした。
「あら、檜扇さん？　きょうは……」
「ええ、いつもメイド服ではないのですよー」
　そこにいたのは檜扇舞華、星ヶ丘寮所属のメイドです。メイド業はアルバイトで、昼間はアニメーション専門学校の生徒でもあったりします。普段メイド服の彼女ですので、エレナの眼にはこの私服姿が、なんとも新鮮に映ったのでした。
「エレナさんは手ぶらのご様子」
　と言って舞華は、シルクハットほどもあるポップコーンを差し出して、
「こちらをどうぞ。映画には必須です」
　と笑顔を向けたのです。エレナもつられて微笑みを返しました。
「エレナさんの姿、入口のところでちらりとお見かけしました。あの純愛映画のほうに行っていると思ったのですが……」
「いえ実は、ああいった湿っぽいものは苦手で」
「おや意外！　ホラーが得意とおっしゃる！？」
「得意というのはどうかわかりませんが、好きなのは断然こちらですね」
　ほうほうほう、と楽しそうに舞華は言いました。まるきり逆を予想していたからです。
「ちなみに私は映画は幅広く好きなので、今日はハシゴして『京都の恋と、水無月と』のほうも観る予定です。あれは原作小説も読んだことがあるので、どう映像化されるか気になりますね」
「『ゾンビーズ』はどこに注目を？」
「こちらは吹き替え版ですから、声優陣の演技力を楽しみにしております。それと、Ｂ級ゆえのダサさや笑わしにきてるアクターに注目したいな、と……おっと、愛してやまないジャンルだったとしたら失礼を」
「いいえ、Ｂ級テイストは積極的に楽しむポイントですもの。その意見、大賛成です！」
　エレナの眼が輝いています。ここはファンとして必ず抑えておきたいポイントなのです。もちろんホラーですから怖いのですが、それとともに、ときとしてはそれ以上に、妙な笑いのツボがあるのもこういった映画の魅力なのです。
「同意いただいて嬉しい限り。さていよいよ始まりますね。今日はこの二本をしっかり観て、ネコ動生放送のネタにしたいと思っています」
　部屋が暗転しました。短い予告編集が終わると、いよいよ『グチャドロゾンビーズ』の始まりです。
　いきなり画面にはギャーなシーンが炸裂、そこからもアヒーとオボーとギニャーが乱舞の暴走ローラーコースター的展開、もちろんグチャドロもたっぷり、おまぬけな爆失笑ポイントともたっぷりという、実に実にＢ級でホラーで怖く楽しい（！）作品であったことをここに記しておきたいと思います。
　――もーなにもかーもーがぐーちゃーどーろー。
　脳内で唱いながら、舞華は終始、笑顔でした。
　もちろん、エレナも。