Sweetnessをさがして｜リアクション

Sweetnessをさがして

　六月の風は水色の風。少し湿り気があって、少しぬるくて。
　そんな水色が、神木煉の髪をなでていきます。
　けれども煉の心も、ほんのり淡いブルーなのでした。
「……困ったことになった」
　憂鬱の蒼ではないのですけれど、爽やかな白というわけでもありません。
　待ち合わせ場所の駅改札口が、パタンパタンとせわしない音を立てています。寝子島シーサイドタウン駅はけっこうな人出、普段通り……いえ、よく晴れた休日ということもあって普段以上の利用者数でしょう。
　けれど煉にはもう関係なくなったからでしょうか。改札の立てる音はほとんどその耳に入りません。
　彼は耳に当てた携帯電話を下ろしました。
　煉の脳裏にはついさっき確認した、あるメッセージがこびりついています。
　それは留守番電話の記録でした。
　今日、煉が待ち合わせしていた人物からの。
　具体的に言えば、ドタキャンのお詫びです。ゴホッゴホという咳とともに、彼女は現在、ちょっと笑えないほどの高熱があって寝込んでいることを吹き込んでいたのでした。
　鬼の霍乱、なんて言ったら彼女は怒るでしょうか。いつも元気な彼女が風邪とは。
　けれどその伝法ながら苦しげな口調、荒っぽいけれど平謝りする言葉はまぎれもなく本物です。
　残念ですが、煉の本日のスケジュール……つまり彼女（ガールフレンドという意味じゃありません。純粋に『she』の意味の『彼女』です）と買い物して過ごすという予定は消滅しました。
　ところで記録の終わりぎわ、さりげなく、なにか食べたいという意味の言葉を彼女がつぶやいたのはどういうことでしょう。
　――見舞いに来い、ってことか？
　悩みます。
　果たして彼女が、病に倒れ伏せっているところを自分に見せたいのかどうか。
　そこまで、信用されているのかどうか。
　……異性、なのに。
　――待て待て！
　なにを意識しているのか――煉はそんな自分を笑い飛ばしたくなりました。
　相手はあの、殺しても死なないようなタフな悪友。なにをいちいち気にすることがあるでしょう？　駅ビルに寄って、買い物でもして見舞いに行くとしましょう。
「わかった。家で寝てろ」
　煉が返答として、彼女の携帯電話に吹き込んだのはそんなメッセージです。彼女は出ませんでした。（きっと寝ているのでしょう）
　ここは無難にリンゴとか、果物のひとつでも買っていくとしましょうか。
「それにしても、手間のかかるヤツ！」
　独言しながら我知らず、煉の口元には笑みが浮かんでいるのでした。

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