せんせいといっしょ：鷲尾先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：鷲尾先生編

●憂鬱な気分

　成績は良いのと同じくらい、自他共に認める体力が無い八神修。
　春から少しずつ改善され、握力もついてきた……というものの、保健室の常連というのは変わらない。
　参考書片手にベッドに横になろうと、５限が始まる前に保健室へ。

　そんな修同様、保健室に向かっているのは明るく、のんびり屋なオリガ・ドラグノーヴァ。
「たまには、風紀委員をサボってもいいと思いますよお！　クフフフフ♪」
　幼い頃、ロシアンマフィアの抗争で家を焼かれた際に顔、特に左半分に大火傷を負い、左目を失明という壮絶な過去を持つ。
　その時の火傷の痕は、昔より小さくなったものの、眼帯でギリギリ隠せる程度の大きさである。
「ジメジメした梅雨の湿気のせいで、左目の火傷の痕が疼いて仕方がありません。汗疹みたいな感じですねえ」
　左目が疼くのか、左手で押さえて痒みを堪える。過去を思い出してしまうので、憂鬱になった。
　雨が降ると湿気で過去の古傷が疼くので、通気性の良さそうな包帯を分けてもらい、眼帯の代わりに使わせてもらおうと保健室に来たのだった。

「「失礼します」」

　修とオリガは、タイミングを合わせたかのように、同時に保健室に入ってきた。
「具合いが悪いので、横になっても良いですか？」
「先生、包帯を分けてもらえませんか？　左目が疼いて仕方ないんですよ」
　来た理由を言うのも同時だったので、何を言っているのかわからず。
「１人ずつ言ってくれる？」
「すみません。僕は、左目が疼くので診てもらいたいんです」
「俺は、保健室のベッドで横になりたいんです」
「わかったわ。ベッドは今、誰も使っていないから、空いているのを使ってちょうだい。眼帯のキミは、眼を診せて」

　修がベッドで横になり、オリガは鷲尾先生に火傷の痕を見せるのを躊躇ったが、疼きをどうにかしてもらいたいので、診てもらうことに。
（先生の手、温かいです）
　左頬に触れる鷲尾先生の手は、オリガの気分を落ち着かせた。一時的だが、疼きが治まったような気分に。
　怖がるのではないかと不安だったが、鷲尾先生は、何も言わず、真剣に左目の症状を診ている。
「汗疹になりかけているわね。薬を塗って、包帯を巻いておきましょう。暫くは、清潔な包帯を巻いておいたほうが良さそうね」
「お願いします、先生。僕の火傷の痕、気味悪いとか、怖いとか思わないですか？」
　その質問に対しては、鷲尾先生は何も言わず。左目周辺に汗疹用の薬を塗り、ゆっくりと包帯を巻く。
「はい、おしまい」
「Спасибо（ありがとう）」
「でも、これはあくまでも応急処置。まだ疼くようなら、病院で診てもらうこと。その火傷の痕、相当古いもののようだけど……」
「昔の火事が原因です。最初はものすごく痛かったですけど、今は大丈夫です。梅雨時は、今日みたいに疼きますけど。今もまだ疼いているから、黒板の文字が見にくくて。治まるまで、保健室で休んで良いですか？」
　無理をさせるのは良くないと判断した鷲尾先生は、疼きが治まるまで休んでいなさいと言った。
　オリガの左目が疼くのは本当だが、風紀委員として、保健室での風紀の乱れが予測できるので居座ろうと考えているのは内緒。
（サボりだけど、先生に迷惑でないなら良いよねえ。クフフフフ♪）