せんせいといっしょ：鷲尾先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：鷲尾先生編

●目指す理由

「先生は、何故、保健医になったんですか？」
　保健室を去る前に、御剣刀が鷲尾先生に訊ねた。
「人の怪我や病気を治したいって言うのなら、医者になるんじゃないかと思ったので。最初から保健医になろうと思ったのか、なろうと思ったのなら、何故、そう思ったのか、が気になります」
　そうねえ……と顎に細い指を添え、質問の答えを考える。
「最初に言っておくけど、養護教諭と保健医はまったく違う職業よ」
「そうなんですか？　それは、知りませんでした」
　話の腰を折ってごめんなさい、と謝ってから、鷲尾先生は質問の答えを話し続ける。
「私が養護教諭になった理由は、キミ達のような子の相談に乗ってあげたいから、とだけ言っておくわ。思春期の子は、いろいろな悩みを抱えているもの。女の子なら、胸に関することとか……」　
　どうして、他に聞きたいことがわかったんですか？　と言いたげな御鏡聖を見て「図星なの？」とクスリと笑う。
「センセーは養護教諭なのだ、養護教諭ってお医者さんの親戚なのだ？」
　後木真央も、似たような質問を。
「養護教諭と医師は別物よ。養護教諭は教員免許だから、他の先生方と同じ教師よ。怪我や病気の応急処置を行ったり、健康診断を通して、生徒の心身の健康を掌るのが私のお仕事なの」
「じゃあ、学校の看護師さんってところなのだ」
「まあ、そんなところね」

　医師と養護教諭の違いがわかったところで、真央は相談内容を持ちかける。
「真央ちゃん、理学療法士になりたいのだ。だけど、調べても良く分からないのだ。どの教科頑張れば良いのだ？」
「理学療法士になるのは、大学か短大、専門学校などの養成校に進学しないと。大学か短大に進学するうのなら、理系を勉強すると良いわ」
　養成校で3年以上学び、必要な知識と技術を身につけることが必要になる、と付け加える。
　ふむふむ、と、真央は熱心にメモる。
「キミ、どうして理学療法士になりたいの？」
　理学療法士を目指す理由は、真央が幼稚園の頃、ヒーローの真似をして２階から空中キックしようとして両足骨折したことがある。入院したというのは、言うまでもない。
「すごいことしたのね」
「初めての入院だったから、１人ぼっちでとっても寂しかったのだ。その時に会ったお姉さんが、理学療法士さんだったのだ」
　これが出来たら、おうちに帰れるよって優しく教えてもらったことは、今でも覚えている。
　そのお姉さんのおかげで元気が出たから、自分もそんな理学療法士になりたい、と話を締め括った。
　子供の頃の体験が、自分の将来を決めることもある。
「それに、将来、おじぃやおばぁの役に立つのだ」
　明るい笑顔、優しいといった真央の長所を活かせば、幼稚園時代の彼女のような人の支えになれるだろう。
　真央を見て、人を励まし、勇気付ける理学療法士になれる。そう確信する鷲尾先生だった。
「なれるかどうかは、キミ次第よ。夢に向かって頑張ってちょうだい」
「はいなのだ！」

「不思議ですよね……。一年前は保健室登校してて毎日顔合わせてたのに……本当に親身になって先生は私に接してくれてたのに……」
　それなのに心が開けなかったので、添木牡丹は、一度は自分から距離を置いた。
　それにも関わらず、鷲尾先生は自分を理解し、認めてくれた。それが、牡丹が鷲尾先生に依存する理由だった。
「あの時、先生が変わらず接してくれたからこそ……今の私があると思うんです……。ありがとうございます、鷲尾先生……。私もいつか……鷲尾先生みたいになりたいな……」
　えへへ……とじゃれるように抱きついて言う牡丹だが、その言葉は本心だろう。

このページにイラストを設定する