せんせいといっしょ：鷲尾先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：鷲尾先生編

●秀才のジレンマ

　掃除用具入れの音で昼寝の邪魔をされたオリガ・ドラグノーヴァは、仕方なく起きることに。
「さっき、ここから何か物音がしましたねえ」
　したんだってば！　と、声を大にして言いたかった雨崎荒太郎だったが、下手に物音を立てると怪しまれるので我慢。
　八十八旗信彦は、鷲尾先生が助けてくれるシチュエーションを想像しつつ、もう少し、ここから保健室の様子を窺うことに。

　バストアップに関して話を聞きに来た後木真央、保健委員の仕事をしにきた尾鎌蛇那伊、添木牡丹が保健室へ。
「鷲尾先生……いないでしゅ」
　泣きそうな牡丹に、蛇那伊は「先生が来るまで待っていましょう」と優しく声をかける。
「君達、鷲尾先生に何か相談事？」
「真央ちゃんは、胸にお肉をつける方法を教わりに来たのだ！」
　バストアップか、納得するオリガ。

　数分後、しばしばサボり目的で保健室を利用している桃川圭花が私服でやって来た。
　制服の着用が校則で決められているので、手頃な空き教室で、持ってきた私服に着替えてきた。
「先生はいないようだから、待たせてもらうわ」
「圭花ちゃん、大人っぽい格好なのだ」
　私服姿の圭花は、高身長、スラリとした体型なので眼鏡をはずし、髪型をアレンジすればモデルに見える。
「ありがとう、後木さん。あなたはどう思う？」
「良いんじゃない？」
　オリガの意見の後、女子達はファッション話を。
「似合うけど、校則は、ちゃんと守らないと」
　器具の点検を終えた蛇那伊が、割り込んで注意。

　授業がすべて終わったので、八神修は帰宅することに。
「やっほー、修ちゃん！　今日も新ネタ求めて三千里なのだ？」
「新ネタか。そういえば、ちょっとしたハプニングがあったな」
　気付かない振りをしていたが、上穗木千鶴の一件はしっかりと把握していた。
　出くわした本人がいることを知らないので、そのことを真央に話した。
「そんなことがあったのだ？　らきすけなのだ」
「俺は見ていないから、何とも言えないけど」
　修が保健室を出ようとした時、鷲尾先生が保健室に戻ってきた。
「おかえりなさい、先生……待ってましたぁ～」
　仔猫のように甘えて鷲尾先生に抱きつく牡丹を見て、信彦は「羨ましい……」と呟く。
「八神くん、具合はもう良いの？」
「はい。今日は、たくさん相談がありましたね」
「そうね。それはともかく、勉強ばかりしているから、身体が休まらと思うのだけど」
　そう言うと、鷲尾先生は、修から参考書を取り上げた。
「全国統一模試の前に、出題範囲に弱点が無いか見ておきたいんですよ。勉強は趣味で、知らないことを知るのは好きです」
　表情は真面目だが、捨て犬が鳴くように返してくださいとお願いする。

「ひとつ、聞いて良いですか？　先生は、何故、保健医を選んだんですか？　俺も……医者に……あ、なんでもありません」
　コホンと咳払いして誤魔化す。
「昼休みにも、キミと同じことを聞いた子がいたわ。その子にも言ったけど、私が養護教諭になったのは、生徒の悩みを解決するためよ。病気や怪我の看護もだけど、心の診療もしたいの」
「そうでしたか」
「私も質問するわ。八神くんは、何故、保健室でも勉強しているの？」
「東大を狙っているんです。一応、軽王を滑り止めに。学業を疎かにしないというのが、寝子高進学の条件でして。成績が芳しくなかったら、帰還の口実になるんですよ。親に我侭言っているもので」
　やれやれ……と苦笑し、そう答えた。
　医者を目指したいが、衆議院議員の後継を期待する父が許す筈がないので、そのことを話すことができず。

　自分の意思と父の期待。そのふたつに板挟み状態な修だった。