＜零神探訪・後日談＞紅き街にて｜リアクション

＜零神探訪・後日談＞紅き街にて

●今日が始まり、紅火楼再建へ

　夜が明けた。
　紅火楼跡地に暮らす人女性たちにとって、いつもと同じようで、いつもと違う朝だった。
　なにしろ素晴らしい三つのニュースがあったのだ。
　まず飛び込んできたニュースは、粘着質だったロクデナシな男たちが夕べのうちに何人も伸されたという話。男たちは鬼神が現れたと怯え切っていて、なかには逃げるように街を出ていった者もいるらしい。
「ふんっ、天罰だよ！」
　女性たちが胸のすく思いでいると、リンコがやって来て、劇場経営者としてうってつけの人物が見つかったという。フジコ先生が連絡を取ったのは、未婚の女性だけで構成された日本でも有名な歌劇団のＯＢで、男役のトップスターを務めた人物。退団後は演出家として幾つものステージを手掛け、いまは中国沿岸部を居を移して活躍しているのだという。
『話したら素晴らしいチャレンジになるってすっごく乗り気になってくれてね』
　そう言ってフジコ先生は画面の向こうでウィンクする。
『元娼妓としてセクシーさを売っていくのは危険もあると思うのよ。けど、男装して女性だけの歌劇団だったらどうかしら？　そちらのお国では目新しさもあるだろうし男装は身を守る術にもなると思うの。そのかわり成功への道のりは鬼のように厳しいから、覚悟しなさいよ！』
　最後に届いた良いニュースは、トワが運んできた紅火楼跡地の権利交渉が上手く行った話だった。
「土地の権利は新しい劇場経営者の方に譲るのが良さそうデスね！　ま、心配せず任せてくだサイ！　悪いようにはしませんから」

「メイユ」
　夏夜は、ほっと胸を撫でおろす年下の少女に語り掛けた。
「紅火楼が崩れたあの日、君が言った言葉……僕はずっと納得できなかったんだ」

「……『叶わぬ夢』だと、誰が決めた？」

「え……」
　メイユは息を呑んで夏夜を見つめる。夏夜は目を伏せたまま言葉を続ける。
「僕も……僕『達』もメイユ達の夢・願いとは異なるだろうけど実現が難しい願いを持ってる。
　神様でも難しいかもしれない事……。
　でも……諦めてたまるものか。
　僕達が諦めたらこの願いは終わってしまうんだ。
　君達の夢や願いは君達が諦めたら終わる……本当に叶わぬ夢に、君達自身がしてしまう！」
　厳しい言葉だと夏夜自身もわかっていた。けれど今伝えずして、どうするというのだ。
　いま、人生の岐路にある彼女たちにこそ、選びとってほしいのだ。
　なぜなら、彼女たちの夢はもう、手の届くところに近づいている。
　自分たちよりずっと、近いところに。

「僕達は……夢を、望みを諦めない。
　君達にも……この機会に、もう一度……考えてほしい。
　未来を、夢の行末を選べるのは……君達自身なのだから」

　夏夜の言葉はメイユの胸を打った。
　メイユの瞳から大粒の涙がはらはらと零れると、つられるように女性たちもすすり泣きを始める。
　言葉は紡げなかった。メイユは頷く。今はそれが精いっぱいだった。