【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！｜リアクション

【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！

　御巫時子の順番が回ってきた。発砲音と共に走り出し、紙を手に取った。
「これは困りましたね」
　時子は目で探す。見つけた『借り物大魔神』の元に小走りで向かう。
「借り物が難しいので尚輝先生に協力して貰ってもいいですか」
「そうだな。借りる為の手段として認めてやるぜ」
「ありがとうございます、熊吉先生」
　時子は笑みを返し、白衣を着た五十嵐尚輝のところへと走る。
「バ、バカタコがっ！　俺は謎に包まれた『借り物大魔神』だ！」
　耳にした生徒達は苦笑いとなった。
「そういうことなので尚輝先生、協力してくださいね」
「わかりました。協力します。それで紙にはどのような物が書かれていたのですか？」
「蕎麦屋『すすきの』のサンマそば定食が借りる物です」
　時子は尚輝の様子を見る。ボサボサの前髪で目は隠れていて表情がはっきりしない。
　その時、尚輝の口元が緩んだ。
「御巫さんと相席したお店ですね」
「はい、そうです」
　喜びを噛み締めるような顔となった。時子は尚輝と共に移動を開始した。距離があるので寝子島シーサイドタウン駅から電車に乗ることに決まった。
　二人は青い空と海を背景にして並んで座った。流れる景色を時子は憧憬にも似た目で眺めていた。
「旅行みたい」
「御巫さん、何か言いましたか？」
「……独り言です」
　しおらしく答えた。二人は電車の揺れに任せて時間を過ごす。
　短い旅行は終わりを告げる。寝子島駅に到着した。
　二人は参道商店街を歩き、途中で脇道に入った。少し歩いた先に日本家屋然とした店があった。
「着きましたね」
　時子は引き戸を開けて暖簾を潜った。席には着かず、奥の厨房に向かって声を掛けた。
「相談に乗って欲しいことがあるのですが、少しお時間をよろしいでしょうか」
「私が聞くよ」
　近くでテーブルを拭いていた女性の接客係が顔を上げた。
　時子は一礼して話を始めた。
「寝子島高校の体育祭の借り物競争で『すすきの』さんのサンマそば定食に当たりまして、お借りしに来ました。言葉では借りるのですが、もちろん料金はお支払いします。競技が終わったあとに器とお盆を返しにきます。いかがでしょうか」
「あの高校は相変わらず、ぶっ飛んだことをしているんだね。わかった、聞いてみるよ」
　接客係は笑って厨房に入っていった。
　五分と待たせなかった。接客係は明るい顔で言った。
「いいそうだよ、条件付きだけど」
「どのような条件ですか」
「美味しく食べてくれってさ」
「わかりました。ゴールしたあとでいただきます」
　話はすんなりと決まった。持ち運びを考えて器には汁だけを入れた。零れないようにラップで覆う。具材のサンマと蕎麦もラップに包まれ、お盆に載せて渡された。他に白飯、冷奴、漬物、デザートと細々とした物が敷き詰められていた。
「こうすれば蕎麦が伸びないから、あとで美味しく食べられるよね」
　接客係は時子の背中をポンと叩いた。後押しを受けた時子は笑顔で頷いた。
　お盆を片手に持った尚輝が引き戸を開ける。二人は揃って店を後にした。
　帰りも同じように電車に乗った。手に持った物のせいで少し目立ち、やや俯いた状態で寝子島シーサイドタウン駅を降りた。
　二人は早歩きとなって寝子島高校に戻ってきた。観客の声援を受けてグラウンドを回る。ゴール直前で同時に足を止めた。
「完成させましょう」
　時子の一言で尚輝が実行に移す。添えられた割り箸を使って器に蕎麦を入れた。蒲焼のサンマは中央に載せて存在感を露わにした。
　二人は完成させたサンマそば定食を持ってゴールを果たす。順位は四位であったが出来立てのような蕎麦が評価されて高得点を叩き出した。
　時子は笑みを浮かべて尚輝と向き合う。
「条件を実行しましょう」
「いい朝ごはんになります……今朝方まで実験をしていたので」
　尚輝は頭を掻きながら言った。