【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！｜リアクション

【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！

　青山絢は生徒の中に混ざって出番を待っていた。長い髪は後ろに束ねている。アニマル柄のＴシャツとスパッツを合わせた姿に静かな熱意が窺えた。
　絢は視線を下げて手元のワイルドカードを見ていた。強制参加となった原因であった。疑わしい目を向けて裏面を指先で掻いた。
　――前の時と違ってシールは貼ってないのね。
　目はグラウンドに置かれた紙に向かう。

　スタートラインに生徒達が横一列に並ぶ。スターターの発砲音と共に一斉に飛び出した。絢は四番手で紙を手に取った。
　書かれている内容を見て少し表情を和らげる。
　――喫茶『しゃのわぁる』から漫画や小説を借りればいいのね。難しい問題ではなくて助かったわ。
　目は自然とフェンスに向かう。ヤギに懸命に草を与える響蒼留人の姿を見た。そっと目を伏せて自分のことのように溜息を吐いた。
　ふと紙に書かれた内容に目がいく。
　――でも、よく考えると場所が遠いのよね。喫茶店は旧市街の外れにあるから歩いていくとかなり時間を取られるわ。
　絢は生徒達が集まる方向へと走り出した。目の前にして躊躇うかのように俯き、即座に顔を引き上げた。
「あ、あの、自転車を貸してくれませんか。借り物競争で必要になって。すぐに返します」
「先輩、使ってください」
　最前列にいた女子が手を挙げた。
「これが鍵です！　駐輪場の左端にある赤い自転車です！」
「ありがとう。使わせて貰うわね」
　鍵を受け取ると絢は駐輪場へと急ぐ。見つけた自転車の鍵を外し、力強くペダルを踏み込んだ。
　道路に出ると左手に折れる。旧市街に向かって自転車を走らせた。信号の少ない道を選んだ。
　歴史を感じさせる店舗の前でブレーキを掛ける。自転車を隅に寄せて鍵を掛けると少し緊張した顔で中に入っていった。
　控え目の音量で懐かしさを伴う曲が流れている。古めかしいカウンターは手入れが行き届き、艶やかに光っていた。近くの木製のテーブルには客の遊び心の言葉が刻まれていて店内の雰囲気に一役買っていた。
　絢はボトルに入った帆船を目にした。本棚の位置を教えるかのようだった。早足で近づいてボトルシップの下の本棚に注目する。端から見ていく目が一冊の小説のタイトルで止まった。
　絢は店内に意識を向けた。誰かを探すような目となり、見つけたウエイターに声を掛けた。
「あの、突然のことで驚かれると思いますが、この本棚から小説を一冊、借りられないでしょうか。今、寝子島高校では体育祭が行われていて、借り物競争で『しゃのわぁる』さんの本棚が指定されていました」
「事情はわかった。好きなのを持っていきなよ」
「ありがとうございます」
「今度はお客さんとして来てくれると嬉しいな。コーヒーや紅茶は当然だけど、ランチメニューもあるから小腹が空いた部活帰りに便利だよ」
　ウエイターのさりげない宣伝に絢は、はい、としおらしく返した。
「じゃあ、まだ仕事があるから」
　爽やかな笑みで奥に引っ込んだ。
　絢は本棚から一冊の小説を取り出した。タイトルには『寝子島の中心で、ラブをさけぶ』とあった。
　――映画化された作品は観たけれど、実際の小説はまだ読めていないのよね。
　指が最初の頁を捲る。冒頭に目を通し、慌てて閉じた。
「早くしないと」
　急いで店を出ると鍵を開けて自転車に跨る。絢は力強くペダルを踏み込んだ。
　正門を通過して駐輪場に飛び込む。元の状態に戻してグラウンドを走る。競っている相手の姿が見えない。
　――私は今、何位にいるのかな。
　ぼんやりと思いながらゴールを果たした。
　ほぼ同時に『借り物大魔神』が走り込んできて高らかに三位を告げた。