【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！｜リアクション

【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！

　南校舎に身を隠すようにして恵御納夏朝は用意を始めた。金色で毛並みの良い作り物の耳を頭部に取り付ける。相応しい尻尾は装着して腰を振った。外れることはなく、笑みが零れる。
「これは注意しないとね」
　校舎の側面に立て掛けていた金色の翼を持ち上げた。赤いジャージの上から慎重な動作で背負う。肩紐に緩みが出ないように締め直し、その場を少し歩いてみた。
　にこやかな顔でマフラーを手に取る。夜空を模した色合いに色鮮やかな星々が描かれていた。速やかに首に巻いて両端を背中に回す。
　最後の仕上げに額に赤い石を貼り付けた。
「次の用意ができました。借り物競争に出場する生徒は急いで所定の位置に集まってください」
　鴻上彰尋のアナウンスを耳にした夏朝は大きく腕を振って走る。マフラーが風に靡いて流星となった。はためく金色の翼で第一グラウンドを自由気ままに飛び回る。
　目の当たりにした彰尋はマイクに口を近づけた。
「幻獣か、はたまた聖獣なのか！　にゃーばんくるが愛くるしくも勇壮な姿で登場だ！」
「情熱のにゃーばんくるだよ！」
　夏朝は場を盛り上げるかのように観客に向かって手を振った。人々で犇めき合う中を曖浜瑠樹が身を捩って抜け出す。
　夏朝の姿を見て頬を赤くした。その場で夢中になって飛び跳ねる。
「アニマルスターなんだよぉー！　にゃーんがくるだよぉー！」
「情熱のにゃーばんくるなんだよ！」
「にゃーんがくる、にゃーんがくるぅ！」
　話が噛み合っているようで微妙にずれていた。夏朝は最後に、にゃーんがくるだよー、と笑って叫んでスタートラインに立った。
　新たな借り物競争が始まった。夏朝は尻尾を激しく揺らして走る。中央の紙を掴み取って裏返すと魚屋『魚新』の寝子島ちくわと書かれていた。
　――これって借りるんじゃなくて買うんだよね？
　ジャージのポケットに手を入れて財布の有無を確かめる。
「えーっと、魚屋さんは……」
　場所を頭に浮かべて即座に行動に移る。軽快に走る夏朝を同じ白猫組の雨崎楓香が両手のポンポンを振って声援を送る。
「先輩、ファイトー！　にゃーばんくるで、ぶっ飛んじゃってくださーい！」
「ありがとう」
　小さく手を振った夏朝は間もなく正門を抜けた。
　旧市街の道をひた走る。出会う人々は夏朝の姿に驚いたような反応を示す。
「寝子高、体育祭の真っ最中です！」
　その一言で人々は表情を緩めた。あの高校なら、と納得した声も聞かれた。
　――僕も思うんだよ。お金を払う借り物競争なんて、他にはないって。
　耳たぶがサクランボ色に染まる。その状態で夏朝は参道商店街に突っ込んだ。人を避けながら目的地である魚屋に到着した。
　ちくわの種類の多さに目が迷う。結局は普通のサイズを選んで購入した。
　夏朝は休む間もなく引き返す。その途上で猫の鳴き声を耳にした。店頭のベンチにチャトラ柄の猫が目を細めて寝そべっていた。目が合った瞬間、にゃ～ん、と甘えたような声を出した。
　思わず、足が鈍る。未練がましい目を引き剥がし、猫の愛らしさを振り切った。
「ごめんね、猫さん」
　涙目となって全力で走った。

　グラウンドを一周してゴールに飛び込む。夏朝は荒い息を呑み込んで横手の『借り物大魔神』に目を向けた。
「五位でゴールだ。仮装が少し足を引っ張ったが、そのサービス精神は嫌いじゃねえ！　８０点をやるぜ！」
「あ、ありがとうございます」
「それにしても今日は暑いぜ」
　『借り物大魔神』は顔半分を隠していた蝶のマスクを引っ張った。吉田熊吉の姿となってハンカチで顔を拭った。
　夏朝は側で苦笑いを浮かべていた。